研究課題/領域番号 |
15K00583
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
桑原 智之 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (10397854)
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研究分担者 |
佐藤 利夫 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (40170766)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 含水酸化物 / 環境材料 / 吸着 / 地下水 / 砒素 / ほう素 / ふっ素 |
研究実績の概要 |
地下水等に存在する低濃度の砒素,ふっ素,ほう素などの有害陰イオンを吸着除去するためには,夾雑イオンの影響を受けにくい新しい吸着剤を開発する必要がある。本研究では,三元素系複合含水酸化物(三元系試料)を用いた新規有害イオン吸着剤の開発を目指し,さらなる「吸着容量の向上」と「各イオンの吸着機構」を明らかにすることを目的とした。 平成28年度は,ヒ酸・亜ヒ酸に対する分配係数の高いSi-Fe-Mg系試料を選定し,吸着等温線による吸着能力の評価を行った。ヒ酸・亜ヒ酸それぞれにおいて,吸着等温線はFreundlich式およびLangmuir式に該当した。これらの式より,ヒ酸・亜ヒ酸ともに吸着量には濃度依存性があるとともに,ヒ酸に比べて亜ヒ酸の方が最大吸着量が2倍以上大きいことが示された。また,ヒ酸・亜ヒ酸混在条件での吸着試験の結果,それぞれの吸着量は単独条件での吸着量を下回ったことから,吸着サイトが一部競合している可能性が示された。 ほう素吸着剤として,組成比を変えて作成したSi-Al-Mg系試料の吸着特性を検討した結果,いずれの試料も初期pHが7~10では吸着量はほぼ一定であり,さらに積層構造も維持した。また,初期濃度を変化させた場合では特に高濃度条件で急激に吸着量が増加し,極端な濃度依存性を観測した。吸着量は組成比の違いにより異なったが,これまで検討した組成比の試料を上回る吸着量を示す試料はなかった。なお,この試料はほう素吸着に伴い主要成分相であるLDHの層間幅が小さくなる,すなわち層間幅が柔軟に変化する特徴を有することが示されたが,ふっ素吸着の際には層間幅はほぼ一定であることから,ほう素とふっ素において吸着サイトが異なる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Si-Fe-Mg系試料について,選択係数の高かった試料を複数選択し,これらの吸着等温線による吸着能力の評価を行ったこと,さらにスペシエーション分析によるヒ酸・亜ヒ酸混混在条件での吸着能力を評価できたことは予定通りである。スペシエーション分析では,当初はLC接続ICP-MSによる分析を予定していたが,装置の都合がつかなかったことからヒ酸の吸光光度法による分析を試みた。その過程で,LCでヒ酸を精度よく分析できることが明らかになり,方法を変更したことで研究が進展した。 Si-Al-Mg系試料では,前年度の研究成果を基に新たな組成比の試料を合成し,ふっ素とほう素の吸着前後においてXRD分析やTG-DTA分析を行い,構造の変化と吸着量の関係を明らかにした。これらについても計画通りの進捗であった。予定より多くの試料数を合成して吸着試験に供し,予定になかったpH依存性と濃度依存性を検討したため,吸着後の試料表面のゼロ電荷点(PZC)の測定をすべての試料で行えなかった点で予定通りとならなかった。 以上のことから,(2)おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の研究により,非常に有用な砒素吸着剤として利用可能なSi-Fe-Mg系試料が明らかになりつつある。また,ほう素吸着剤では,現状では非常に能力が高いとは言えないが,既存の吸着剤と同程度の能力を持つSi-Al-Mg系試料の組成が示された。最終年度は,Si-Fe-Mg系試料についてヒ酸・亜ヒ酸混在条件かつ,低濃度での吸着能力評価を実施する。このとき,LCでは低濃度のヒ酸が測定できないことから,濃縮カラムを併用して分析を行う。さらに,模擬液あるいは実際の地下水を利用して,多成分イオンが存在する条件でのヒ酸・亜ヒ酸吸着能力を評価することで,より現実的な利用を踏まえた吸着能力を明らかにする。ふっ素・ほう素については,前年度合成したSi-Al-Mg系試料について分析をさらに進め,特に多く含有するMgの形態に注目して吸着前後の構造の変化を明らかにする。含有するMgは非晶質水酸化Mgであると示されており,層状化合物との混成である試料における特徴を踏まえて吸着能力を評価する。 最終的に,吸着等温線のデータや吸着前後の構造の変化,PZCの変化,TG-DTAの変化などをもとに,ヒ酸,亜ヒ酸,ホウ酸,フッ化物イオン吸着機構を明らかにするとともに,より吸着能力が高く,かつ実用性の高い試料を選定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が当初予定よりも少なくなったこと,謝金支出を予定してた学生が自らの研究の都合により研究補助ができなくなったことが大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
謝金について,これまでの実績を鑑みて今年度は50,000円を計上してる。したがって,繰り越した謝金分の予算は,昨年度と同様に物品費として使用する。
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