研究課題
本研究では高塩素化ポリ塩化ビフェニル類(PCB)に対して高分解性を示す芳香環水酸化ジオキシゲナーゼの変異体酵素の創製を目指すことを目的とする。昨年度のComamonas属由来の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼの変異体解析の結果から、6塩素以上の高塩素化PCBに作用する酵素の創製は当初予想していたよりも困難であると考えた。そこで、本年度は当初の計画を変更し、下記2点の実験を実施した。(1)3種類の候補遺伝子の大腸菌発現系の構築高塩素化PCBを分解する酵素を得るためには、Comamonas属由来の多重変異体酵素よりも他の酵素を試すことが有効であると考えた。本年度はComamonas属由来の酵素以外の可能性について検討することにした。そこで、Comamonas属由来の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼとは構造が異なるために基質特異性が異なると推定される酵素を3種類選択し、候補酵素とした。それらのうち、1種類の酵素については単離し、その発現条件を検討した。その結果、発現ならびに活性が検出されたが、今後はよりよい発現条件が必要だと考える。また、残り2種類の酵素については人工的に合成した遺伝子を発現ベクターに組み込み、その発現条件を検討しているところである。(2)PCB分解活性の評価系の改良これまでは、PCBの分解活性は、親化合物である残存PCB量を検出することにより行っていた。この場合、分解活性が弱いと、親化合物の減少はわずかであるために検出できない可能性が考えられる。そこで、活性が弱くても検出できるように、代謝産物を検出する系を検討しているところである。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、候補の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼ遺伝子をコードする発現ベクターを3種類準備し、現在、発現条件を検討しているところまで進んだ。よって、違った種類の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを準備できたためより改変できる可能性を広げたと言える。さらに、別の検出系を検討したことは、活性が弱くても検出できる可能性を高めたと言える。この2点のことから、研究進展状況は順調であるといえる。よって、今後は、より高塩素化されたPCB異性体に作用し、カネクロールKC-500に対して高い分解効率を有する芳香環水酸化ジオキシゲナーゼを取得することが課題である。
本年度準備した3種類の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼについて、下記の実験を行う予定である。(1)PCBに対する分解特性の解析本年度に引き続き、大腸菌での発現条件を検討する。発現を確認した酵素に関してPCB分解特性を解析する。(2)変異体解析(1)で有望であると分かった酵素に対して、PCB複合体の推定構造を基に基質結合部位ならびにその周辺部位を候補として変異体解析を行う。
試薬などの消耗品費が当初の予定よりも少額で済んだことによる。
本年度は、構築した3種類の芳香環水酸化ジオキシゲナーゼについて変異体解析を行うことを計画しており、そちらに使用する予定である。
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Toxicological Sciences
巻: 152 ページ: 340-348
https://doi.org/10.1093/toxsci/kfw086