本研究では分布型水文モデルを基盤として、流量変動による河床撹乱に対して河川生態系が示す応答を流域スケールで解明・モデル化し、そのモデルを河川環境管理に活かす方法を開発することを目的としている。昨年度までに作成した分布型流出モデルおよび衛星画像に基づく河川環境評価を基盤として、引き続き今年度も主に相模川流域を対象として河川生態系の撹乱応答の解明を進めた。
まず、洪水・渇水などの水文学的事象は河川生態系にとって重要な環境要因であることから、事象が発生する季節性を適切に評価すうるために循環統計を用いた新手法を提案した。この手法により流域規模の魚種種数と洪水・渇水の発生タイミングとの関係を評価した結果、大・中規模洪水の周期性は在来種魚類種数(流域面積当たり)と有意な非線形関係が確認でき、中規模かく乱仮説が支持された。さらに、小規模洪水の周期性と在来種魚類種数との関係も合わせて検討した結果、洪水の周期性と魚類の種多様性の間に一定の関係があることが示唆された。
また、水文モデルを基盤として、相模川流域の魚類の種分布をモデル解析により明らかにした。まず、18種の魚種の分布をモデル化し、先行する環境条件を種分布モデルに組み込むことでその重要性を検証した。その結果、7魚種の分布に対しては先行する水文学的条件(前年の流況)の重要性が示され、確認割合の低い2種については先行する水文学的条件を用いてのみ予測することができた。つまり、適切な時間スケールで各生活史と関連する先行する環境条件を種分布モデルに組み込むことで、種の分布の時間変化をよりよく説明できることが明らかとなった。さらに、生物種の分布は複数の空間スケールにおける階層的な環境要因の影響によって決まるため、各環境要因が種分布に対してどのようなスケールで寄与しているかを説明する新たなモデルも開発した。
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