サンゴの白化現象は共生藻の光合成色素が欠失しサンゴ体内から失われる現象であり、高水温や低塩分、強光などの異常な環境によって引き起こされる。サンゴは共生藻の光合成産物をエネルギー源として利用しているため、白化が数週間以上続くと、サンゴ自身も死滅する。白化現象は1980年代から頻繁に世界中のサンゴ礁で確認されるようになり、サンゴ礁生態系の衰退が懸念されている。 白化現象のメカニズムは、高水温で共生藻の光合成電子伝達系から活性酸素種(ROS)が発生することで生じる。通常は抗酸化酵素によって無毒化されるが、白化の際は対処しきれないほどのROSが生成していると考えられている。このため、本研究課題では、造礁サンゴに抗酸化酵素の補因子である微量金属元素を濃集させ、酵素活性を向上および白化を軽減・阻止させることができるかどうか評価することを目的とする。 微量金属元素をサンゴに濃集させる実験では、銅、亜鉛およびマンガンをそれぞれ海水に添加し、エダコモンサンゴを培養した。サンゴの石灰化と共生藻の光合成速度を指標として、代謝量に影響を及ぼさない濃度を決定した。この条件でサンゴに濃集されたマンガンは通常の2.3倍であった。銅や亜鉛よりもマンガンがサンゴに濃集しやすいことを示しており、抗酸化酵素活性により大きく影響を与える可能性を示唆した。 抗酸化酵素活性定量法の検討では、標準試薬のスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)を用いてヒポキサンチンおよびKCNの最適濃度を決定し、サンゴのCu・Zn-SOD活性測定法を確立した。 サンゴの抗酸化酵素活性の評価では、プランクトンを給餌したサンゴの抗酸化活性が有意に高く、微量金属の濃集もみられた。また、高水温下でも高い抗酸化能が維持されたことから、餌由来の微量金属が白化の耐性に寄与することが示唆された。
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