研究課題/領域番号 |
15K00596
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
片野 泉 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (90414995)
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研究分担者 |
高原 輝彦 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (10536048)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水生生物 / 泥 / ため池 / 湿地 / 河川 |
研究実績の概要 |
生物多様性保全のためには,生物の分布を詳細に把握する必要がある。近年,水中に懸濁する生物のDNA断片いわゆる環境DNAによるモニタリング手法が提案され,野外調査にも適用され始めている。しかし,粒子によるフィルターの目詰まりや,泥中の夾雑物によるDNA検出阻害が起こるために,現状の適用範囲は清冽な水塊のみに限られている。清冽な水塊中に生息する生物がよく目につく一方で,泥内に生息する生物は目立ちはしないが希少な種が多く存在しており,保全対象種や新種記載される割合が高い(ヒメタイコウチ,シャープゲンゴロウモドキ,イシガイ類など)。丘陵地の浸み出し部など小さな湿地や水田・用水路・ため池や河川ワンドなど,陸域と水域の境界であるエコトーンや広義の湿地生態系の保全が急務とされているのはそのためである。 このように保全が急務とされるエコトーン・湿地は泥を多く含み,絶滅危惧種も多い。泥水中の環境DNA抽出,検出が可能となれば,貴重な生息地に踏み込むことなく在不在を調べる”非侵襲的”調査が可能になるため,調査技術のブレイクスルーが期待できる。そこで,我々は「泥サンプルからの環境DNA抽出技術の確立」を目的とした共同研究を行なっている。 2015年度に引き続き,2016年度ではさらに,前年度で明らかとなったキアゲン社のPowerSoilキットを使った抽出方法を検証した。さらに,ゼブラフィッシュを使った室内実験により,泥水の混じった水塊における環境DNAの放出,検出の検証,さらに,これらの内容について研究成果発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は以下の通りである。 1)兵庫県下のため池にて,水からの従来のDNA抽出と,泥からのアルカリ抽出+キアゲン社のPowerSoilキットを使った抽出方法を検証した。その結果,ドブガイをターゲットにしたリアルタイムPCRでは泥からの抽出によるサンプルの方が,環境DNAがより多く検出されることが明らかとなった。 2)ゼブラフィッシュを用いて,飼育実験を行なった。各水質のため池6箇所から表層水を採集した。その水の中でゼブラフィッシュを3日間飼育し,その後の環境DNAを採集した。分析については今後リアルタイムPCRを用いて分析する予定である。 3)昨年度取り組んだヒメタイコウチの研究成果については,Royal Society Open Science誌に投稿し,現在査読コメントについて修正中である。またこれらの研究成果についてAnnual Meeting of Ecological Society of America, 日本陸水学会,日本陸水学会近畿支部会(優秀賞受賞)にて発表済み,もしくは今後発表予定である。現在データが出てきているものについても学術雑誌へ投稿する原稿を鋭意作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
28年度に引き続き,泥水からの環境DNA手法について,魚類,昆虫,貝類など様々な生物種,ため池から湿地までの様々な生態系での環境DNA検出に適用できることを検証し,最も効率の良い手法を確立する。これらの野外での検証結果と,ゼブラフィッシュを使った室内実験による環境DNA放出実験の結果を元にして,湿地生態系における環境DNAを用いた生物分布モニタリング手法を完成させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度,ゼブラフィッシュを用いた実験を行なったが,実験に使用するボトルや設備などについて既存の設備を使うことができた。そのために想定していたよりも実験に必要な消耗品費を少なくすることができた。一方で多くのサンプルが実験から採集できたため,次年度に計画よりも多くの測定を行う必要があり繰り越す必要性が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度のゼブラフィッシュを用いた実験において,想定よりも多くのサンプルが実験から採集できたため,リアルタイムPCRによる定量実験のために繰り越し額を使用する予定である。
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