生物多様性保全のためには,生物の分布を詳細に把握する必要がある。近年,水中に懸濁する生物のDNA断片いわゆる環境DNAによるモ ニタリング手法が提案され,野外調査にも適用され始めている。しかし,粒子によるフィルターの目詰まりや,泥中の夾雑物によるDNA検出阻害が頻繁に起こるために,現状の適用範囲は清冽な水塊のみに限られている。清冽ではない水塊中,例えば泥内や堆積有機物中に生息する生物には,希少な種が多く存在しており,保全対象種や新種記載される割合が高い(ヒメタイコウチ,シャープゲンゴロウモドキ,イシガイ類など)。丘陵地の浸み出し部などの小さな湿地や,水田・用水路・ため池や河川ワンドなど,陸域と水域の境界であるエコトーンや広義の湿地生態系の保全が急務とされているのはそのためである。 泥水や有機物中の環境DNA抽出,検出が可能となれば, 貴重な生息地に踏み込むことなく在不在を調べる”非侵襲的”調査が可能になるため,調査技術のブレイクスルーが期待できる。そこで我々は「泥・有機物の豊富なサンプルからの環境DNA抽出技術の確立」を目的とした共同研究を行なっている。 2016年度に引き続き,2017年度ではさらに,ゼブラフィッシュを使った室内実験により,泥水の混じった水塊における環境DNAの放出・検出の検証,有機汚濁程度の異なる兵庫県下のため池100面におけるアカミミガメ環境DNAの放出・検出の検証を行なった。その結果,泥中や水中の有機物量が増えると,環境DNAの抽出・検出阻害が頻繁に起こることが明らかとなってきた。このような成果は,学会や学術雑誌において発表された。
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