研究課題/領域番号 |
15K00612
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
井上 陽太郎 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所, その他部局等, 主任研究員 (00372136)
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研究分担者 |
舘 秀樹 地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所, その他部局等, 主幹研究員 (60359429)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物油 / Diels-Alder反応 / ネットワークポリマー / 自己修復 / ケミカルリサイクル / 光環化反応 |
研究実績の概要 |
前年度のネットワークポリマーの作製条件の簡略化を検討した。フラン官能基を有する植物油誘導体と多官能性マレイミドを混合し、型に流し込んだ後、75℃で加熱するだけで、熱刺激により可逆性を示すネットワークポリマーを得た。引張試験よる評価を行ったところ、前年度の条件で作製した場合より、破断強度は向上することがわかった。続いて、これらのネットワークポリマーを裁断し、140~150℃で解重合させ、75℃で再架橋させネットワークポリマーを作製した。同様に引張試験により評価を行ったところ、破断強度は初期値ほぼ変わらなかった。さらに、解重合-再架橋を2回繰り返しても、破断強度はほぼ初期の値を示した。 また、ひまし油骨格にマレイミド基を導入し、フラン官能基を有する植物油誘導体から、バイオベース度の高いネットワークポリマーを作製した。得られたネットワークポリマーを同様に引張試験により評価を行ったところ、破断強度はいずれも0.8MPaほどであり、これらのネットワークポリマーに対し、カッターナイフで深く傷を入れ、130℃の加熱による解重合、75℃の加熱による再架橋させると、深い傷でも修復されることを確認した。 さらにけい皮酸、p-メトキシけい皮酸、クマリンカルボン酸を植物油ポリオールに導入し、可逆的な光反応性を有する植物油誘導体を合成した。これらの植物油誘導体をスピンコートにより製膜し、これらの塗膜に対し300nm>光を照射したところ、光反応が進行し、光硬化性ネットワークポリマーを得た。得られた光硬化性ネットワークポリマーをアセトンに浸漬しても溶解せず、基板から剥離しないことがわかった。さらに、光硬化挙動を紫外可視分光光度計により追跡したところ、けい皮酸およびクマリン骨格に由来する吸収が時間の経過とともに減少し、(2π+2π)光環化付加反応が進行し、ネットワークポリマーが形成されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書および平成27年度実施状況報告書に基づき下記の点に関して研究を進め当該年度の目標を達成した。 (1)熱刺激による可逆反応性を示すネットワークポリマーのケミカルリサイクルを繰り返した時の機械的強度の変化 (2)前年度に合成した植物油ポリオールに対し、光刺激により可逆的に応答性を示す基質の導入 (3)合成した植物油ベース光硬化材料の硬化挙動 (1)において作製したネットワークポリマーは平成27年度での作製条件を改良したところ、ネットワークポリマーの作製条件が簡便になっただけでなく、破断強度も向上することが分かった。また、解重合-再架橋を繰り返しても、破断強度はあまり変わらないことが明らかとなった。(2)および(3)において、植物油ポリオールにけい皮酸、p-メトキシけい皮酸、クマリンカルボン酸を導入し、光硬化性植物油誘導体を合成した。石英基板にスピンコートにより製膜した後、300nm>光を照射することにより、光硬化性ネットワークポリマーが得られた。これらのネットワークポリマーは有機溶剤には不溶であり、石英基板から剥離せず、密着性も有することが分かった。さらに、ひまし油にマレイミド基を導入し、フラン官能基を有する植物油誘導体と、バイオベース度の高い熱刺激により可逆性を示すネットワークポリマーを作製したところ、カッターナイフで深く傷をつけても加熱により傷が修復されることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
植物油ポリオールにアントラセン骨格を導入し、その光反応挙動を追跡するとともに、前年度に作製した光硬化性ネットワークポリマーに対し、254nm光を照射させ、その分解挙動を追跡する。さらに、300nm>光を照射による再架橋-254nm光による分解を繰り返し行い、光硬化性ネットワークポリマーの挙動について検討する。また、光硬化後のネットワークポリマーを人為的に傷つけ、ネットワークポリマーの修復挙動について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費およびその他の経費について当初予定していた学会に参加できず、別の学会に振り替えたため、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度において物品費として使用する。
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