研究課題/領域番号 |
15K00625
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
相川 真一 首都大学東京, 理工学研究科, 客員研究員 (10713943)
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研究分担者 |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生態系修復 |
研究実績の概要 |
小笠原諸島において植栽木の消長に影響を与える生理ストレスの解明と、ストレスを回避させ、定着率や成長率を上げるための技術開発を行うための試験として、昨年度、兄島に設定した光環境の異なる2箇所の試験地(open、close)において、植栽木3種(アカテツ、ウラジロエノキ、シャリンバイ)の消長を追跡調査した。その結果、より明るい環境であるopen試験地で植栽木の生存率は低く、特にウラジロエノキでその傾向が顕著に見られた。 そこで、ウラジロエノキの稚樹を対象に個体の乾燥によるダメージの指標としてHuber value(HV、幹地際部の辺材面積/個体の総葉面積)を測定し、各生理特性との関係を評価した。その結果、1年間の生存率および成長速度にそれぞれHVと負の相関がみられた。また、HVの増加に伴って気孔が閉鎖し、光合成も低下していた。更にHVの増加に対し、根から葉にかけての個体全体の通水コンダクタンスが低下していた。一方、HVの変化に対して枝の通水欠損割合(PLC)は低下していなかった。このことから地際から根系にかけての通水部位が乾燥ストレスの影響をより受けやすいことが示唆された。また、幹地際部の木部の糖濃度は各生理特性の変化を受けて推移しており、13CO2ガスを用いたパルスラベリングによる篩部輸送の測定では乾燥枯死がより進んでいる個体で糖輸送量が低下していた。この結果から、乾燥枯死の生理機構に炭素のシンクソースのバランスが重要であることが示唆された。 これらの成果は、2016年に発表された原著論文2報及び2017年2月に小笠原諸島父島、母島で開催された一般講演、2017年3月に開催された日本生態学会ポスター発表において公表し、生態学会においてはポスター優秀賞を獲得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)環境測定、在来樹種の稚樹の生残、成長の測定については土壌水分センサーの不調による欠測期間が発生したものの、概ね予定通りの進捗である。(2)在来樹種の稚樹が受けているストレス状態の測定については炭素同位体を利用した測定など当初予定を超える進捗であった。(3)外来樹種モクマオウの毎土種子化能力の査定については、昨年度の時点でトクサバモクマオウが埋土種子化能力をほとんど持たないことが明らかとなったため、植栽木の生理的特性の調査に振り替えた。これらの状況を鑑みて、全体としてみれば、ほぼ予定通りの進捗であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が研究期間の最終年度となるため、研究期間全体を通した目的である生理的ストレス状態の樹種間での違いや、自然個体と植栽個体の違い及び植栽立地による違い等を解明し、植栽による生態系修復のための技術開発に繋がるデータを収集していく予定である。 平成29年度は、特に(1)環境測定、在来樹種の稚樹の生残、成長の測定及び、(2)在来樹種の稚樹が受けているストレス状態の測定についての調査を継続するとともに、不足しているデータを補い、研究目的の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者である相川真一(小笠原在住)が、学会参加のために小笠原から本土に出張を予定していたが、日程の都合が付かず出張を取り止めたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者である相川真一が、小笠原から本土に異動となったため、平成29年度は当初予定よりも渡航旅費が大きくなることが予想される。そのため、次年度使用額は、現地調査の際の本土から小笠原への渡航旅費として利用する予定である。
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