研究課題/領域番号 |
15K00626
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
東條 元昭 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (90254440)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 極域 / 植物病原菌 / 生物多様性 / 遺伝子資源 |
研究実績の概要 |
極域に生息する植物病原糸状菌の発生生態と遺伝子資源価値を明らかにすることを目的に1)高緯度北極域のスピッツベルゲン島における植物病原菌の定量的調査と、2)北極と南極でこれまでに収集した植物病原菌の同定と遺伝子資源価値の評価を行った。 スピッツベルゲン島での調査では、調査地の主要植生であるカギハイゴケ計54試料からをPythium okanoganense 4菌株とP. polare 4菌株の計8菌株の植物病原菌が分離された。P. okanoganenseは温帯域で麦類等に褐色雪腐病を引き起こすことが知られていたが、北極圏での分布が本研究で初めて明らかになった。 また、同定と遺伝子資源価値の評価では、P. polareの凍結耐性をフリーザーを用いた実験で調べ、近縁の温帯性の植物病原菌よりも強い凍結耐性をもち、宿主に感染すると凍結耐性がより高くなることを明らかにした(Murakami et al. 2015)。さらに、極域の植物感染菌と遺伝的・生態的に近縁の温帯域に生息する植物病原菌の新種記載を行い、このうち国内では長野県のヤナギから、キョクチヤナギ黒紋病菌(Rhytisma polare)に近縁のR. filamentosumを(Masumoto et al. 2015)、堺市からコケ感染性のPythium barbulaeを (Ueta and Tojo 2016)、イラン・タブリーズ市の積雪下から低温でペレニアルライグラスに感染するP. kandovanenseを(Bouket et al. 2015)それぞれ記載した。P. barbulaeとP. kandovanenseについては、P. polareなど極地の同属に近縁で、0℃でも菌糸を伸長させる低温性の性質を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった極域に生息する植物病原糸状菌の発生生態と遺伝子資源価値を明らかにすることに関連し、1)高緯度北極域のスピッツベルゲン島における植物病原菌の定量的調査と、2)北極と南極でこれまでに収集した植物病原菌の同定と遺伝子資源価値の評価を実施し、それぞれについて上述の成果を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
①スピッツベルゲン島の日本北極基地に夏期に約2週間滞在し,基地周辺のカギハイゴケやキョクチヤナギに発生する植物病原菌の種類や密度と地温や降水量等との関係を下記のi~iii)の方法で調査する。i) 植物病原菌の種類・密度 過去に1~2年間隔で実施してきた日本北極基地周辺のカギハイゴケやキョクチヤナギへの植物病原菌の感染率調査を行う。カギハイゴケについては, 2003年に設置してその後1~2年間隔で定点観測を行ってきた6つの試験区(各15 cm四方)に加えて, 2014年7月に新たに1つ設置したウェブカメラ付きの同じ大きさの試験区を用いる。これら計7つの試験区について,分離法による植物病原菌の動態調査を行う。ウェブカメラ試験区は日本から土壌表面のモニタリングが可能であり,現地での雪解けや植生の変化を日本からも観察する。またキョクチヤナギについては2006年に設置してその後2年間隔で定点観測を行ってきた20個(各15 cm四方)の試験区について,肉眼と顕微鏡観察による植物病原菌の動態調査を行う。分離した植物病原菌株は,植物防疫所の許可を得て日本に持ち帰り,種の同定,病原性評価および生理特性評価などを行う。ii) 地表面温度,気温および降水量の調査 上述i)の各試験区には,2014年夏に屋外用温度記録計を設置しており,これらを回収して地表面の温度変化を記録する。気温と降水量については日本北極基地に近い場所で観測しているノルウェー極地研究所の観測データを入手する。iii)データの解析 各試験区における植物病原菌の感染率と温度や降水量を取りまとめ,同じ場所での2003年から1~2年間隔で得たそれらのデータと総合して相関関係を解析する。 ②同定と遺伝子資源価値評価 極域でこれまでに分離し、大阪府立大学で保存している植物病原菌について同定や抗菌物質産生などの遺伝子資源価値評価を行う。
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