研究実績の概要 |
極域に生息する植物病原糸状菌の発生生態と遺伝子資源価値を明らかにすることを目的に1)高緯度北極域のスピッツベルゲン島における植物病原菌の定量的調査と,2)極域の植物感染菌やその近縁種の資源価値の評価と同定を行った。 1)では同島の日本北極基地に夏期に滞在し,植物病原菌として知られるPythium属菌について,基地付近の1地点のカギハイゴケ群落を対象にその生息数を分離法で種毎に調べた。その結果,Pythium sp. 1は2003年から2004年までは6つの種の中で最も高い割合で分離されたがその後は有意に減少し,2016年まで低い割合を保った。Pythium sp. 4は2003年には全く分離されずに2004年になって初めて分離され,2005年以降には6つの種の中に占める割合が最も高くなったが,2016年には有意に低下し3番目に多い種となった。その他4種では2003年から2016年に有意な割合の変化が見られなかった。近年,調査地でのこれらの月の降水量の年次変動が大きくなっており,7~8月に月間降水量70 mmを超える北極としては異常多雨の年があった。そのため,2003年から2014年にかけてPythium sp. 4のように遊走子を形成しやすい菌種が増加した可能性が示唆された。また,同じ地点でキョクチヤナギにの葉に発生するRhytisma polareによる黒紋病の発生頻度を調査し,降水量の増加とコケの地面被覆率の増加が,本病の発生率を高める結果を得た。 2)では同島のカギハイゴケから分離したTrichodermaが褐色雪腐病菌に対する抑制物質物質を特定した(Kamo et al. 2016)。また,極域の植物感染菌の遺伝的近縁種を含むイラン北部高原の植物病原菌を記載した(Bouket et al. 2016a, b, c)。
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