研究課題
極域に生息する植物病原糸状菌の発生生態と遺伝子資源価値を明らかにすることを目的に1)高緯度北極域のスピッツベルゲン島における植物病原菌の定量的調査と,2)極域の植物感染菌やその近縁種の資源価値の評価と同定を行った。1)では平成28年度までのデータについて、コケ類に感染し枯死を起こすこともあるPythium属菌種の発生頻度と気象情報との関連を解析した。その結果、スピッツベルゲン島ニーオルスンのカギハイゴケ群落には、Pythium polare等の6種の低温本属菌が生息していることを確かめた。本属菌全体の分離頻度は2003年から2010年にかけて有意な増加が見られたが、2010年から2014年には有意な減少が認められ、2014年から2016年に大きな変化は認められなかった。分離頻度の年次変化は菌種ごとに違いが見られた。これらの変化は調査地における夏期の雨量の変化と関係している可能性が示唆された(Tojo 2017; Tojo et al. 2017)。また,同じ地点でキョクチヤナギにの葉に発生するRhytisma polareによる黒紋病が宿主の光合成に影響を与えることを明らかにした(Masumoto et al. 2018)。さらに同島ロングイヤービエンにおいて積雪量の違いがコケに生息する低温性の本属菌の分離頻度と種構成に及ぼす影響を調べた。その結果、Pythium polareがすべての積雪深の部分において優占種として見られ、積雪量の増加に伴う本属菌の分離頻度の上昇も見られた。本属菌の1種は積雪深が浅い場所のみで生息が確認された(Yamaguchi et al. 2017)。2)では、南極域キングジョージ島のコケに感染する雪腐病を起こす担子菌をTyphula cf. subvariabilis として記載した(Yajima et al. 2017)。
2: おおむね順調に進展している
①発生生態調査前年までに得られた日本基地周辺で2年毎に実施してきた調査により得られたデータについて,菌の発生頻度と気象情報との関連等を解析した。②同定と遺伝子資源価値評価極域でこれまでに分離し,大阪府立大学で保存している植物病原菌について同定を行った。
①発生生態調査平成28年度と同じ方法で調査を行う。また,同地点で2003年から1~2年間隔で得た植物病原菌の感染率と温度や降水量の15年間分のデータを取りまとめ,各要因の相関分析等を行う。②同定と遺伝子資源価値評価 前年と同様の実験を行う。同定や生理特性評価を終えた菌株は論文等に公表した後に、重要性に応じて微生物保存機関に寄託し研究用として公開する。なお特許性の有る菌株が得られた際には特許申請(国際特許を含む)を優先する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Agricultural Research & Technology: Open Access Journal (ARTOAJ)
巻: 7 ページ: 555723
10.19080/ARTOAJ.2017.07.555723
Mycology: An International Journal of Fungal Biology
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10.1080/21501203.2017.1343753
Oecologia
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10.1007/s00442-017-4037-7