研究課題/領域番号 |
15K00630
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
朱 偉 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 特別研究員 (70297787)
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研究分担者 |
大塚 泰介 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 専門学芸員 (60344347)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アオコ / Microsistis / 群体サイズ / 細胞集積 / 浮上 / 吹送流 / 表層流 / 底生ラン藻 |
研究実績の概要 |
Microcystisの鉛直集積と水平集積について明らかにした。太湖における20日昼夜にわたるフィールド調査では日周性の浮上-沈降運動は確認されず、水の動きが細胞の浮上を大きく制約していることが明らかになった。水槽試験では、Microcystis群体が浮上できる鉛直方向の乱流強度Kzの閾値が群体サイズによって決まることが明らかになった。太湖では4月末にMicrocystisの群体サイズが0.3~0.5 mm程度になり、10月末には大きなもので1 mm程度に達し、11月以後には群体がばらばらになって小さくなった。0.3~0.5 mm程度の群体が浮上できなくなるKzは、概ね風速3 m/sで生じるので、風速がそれよりも小さいことがMicrocystis群体が水面に集積する条件となる。 ケプラー流速計を湖沼の底に逆に設置し、表層の水の流れを計測した。風速0.7 m/s以下では表層の水がほとんど動かなかったが、これを超えると表層20 cm程度の水が流れ始めた。2 m/s程度の風で表層の水の流れが最も速くなったが、3.2 m/sを超えると水が3次元の混合になり、水平方向の流れが消えた。Microcystis群体の実測でも、0.7~3.2 m/sの風が水平集積を引き起こし、2 m/sで最も効率的な水平集積が起こった。以上の鉛直集積と水平集積の条件を総合すると、Microcystis群体が集積してアオコになりやすい風速は、0.7~3.0 m/sということになる。 冬期の群体が少ない時期のMicrocystisの動態を明らかにするため、単独で浮遊するMicrocystis細胞を標識するための蛍光抗体を製作した。ただし、一部の株に対して十分に標識できない問題が残されている。 琵琶湖南湖でブルームを形成する北米原産の底生ラン藻Microseira wolleiの上から、珪藻の新種Gomphosphenia biwaensisを報告した。 中日アオコワークショップを開催し、主に琵琶湖と太湖のアオコの現状、研究、対策について情報交換をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初期に予定していたフィールド研究は、概ね予定通りに完了している。 しかし、単独で浮遊するMicrocystis細胞を検出するための蛍光抗体の作製が2017年度中に完了せず、冬期から春期にかけて琵琶湖などの湖水で検証実験を行うことができなかった。また、琵琶湖からアオコをつくるラン藻およびこれと競合する珪藻の単離培養をするための業者委託を試みたが、日本で唯一、当該サービスを提供できる会社のサービス開始時期が遅れたために、状態の良い生体を確保できず、失敗に終わった。 以上のように、研究途中で新しいアイディアに基づいて始めた研究が遅れたために、研究期間を一年延長することになった。
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今後の研究の推進方策 |
野外実験・観測の成果はすでに数多く論文になっているが、まだ論文になっていないものはなるべく年度内に論文にする 。 アオコ単独細胞を検出するための蛍光抗体を完成させ、12月以降に琵琶湖水を用いて検証を行う。また琵琶湖からのアオコ形成ラン藻および競合種の単離培養を早期に委託し、冬までにこれを用いた培養実験ができるようにする 。 鉛直集積と水平集積を統一した数理モデルを構築する。また、太湖での研究で解明したアオコ集積のメカニズムを、多く湖沼のアオコ発生事例に当てはめてその適応性を検証する。 群体形成のメカニズムをEPSの成分および量の変化から研究していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
琵琶湖のアオコ形成ラン藻およびその競合種(珪藻)の単離を業者委託したが、発注時期が遅かったために当該種の生育状況が悪く、業務が完了しなかったので、業務を次年度に持ち越した。本業務については、琵琶湖でアオコが発生し始める7月までに、11月を納品期限として再度委託契約を行う。 アオコ単独細胞を標識する蛍光抗体の作製で、一部の株に対して免疫反応が十分でないものがあり、研究の延長が必要になった。蛍光抗体の作製に必要なラット飼育は5月で完了する予定である。
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