研究課題/領域番号 |
15K00634
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森塚 直樹 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10554975)
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研究分担者 |
松岡 かおり 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (10720774)
桂 圭佑 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20432338)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 飼料イネ / 土壌肥沃度 / 土壌有機物 / 簡便評価法 / 文献調査 |
研究実績の概要 |
熊本県上益城郡御船町では、飼料イネの栽培が2000年頃から取り組まれてきた。食用米と比べてより大きな地上部バイオマスを持ち出す飼料イネの栽培は地力をより減耗させると想定されるが、食用米と同様の管理が行われてきた。本研究の目的は、飼料イネ連作を行ってきた地域で、収量性・収益性・地力の持続性を評価し、低コスト多収栽培と地力維持を両立させる栽培法を提示するとともに、生産物と土壌の質を農家自らが評価できる手法を開発することである。H27年度には以下の知見が得られた。 1)御船町の食用米水田と飼料イネ水田(各4筆)の作土の養分含量を評価した。その結果、飼料イネ水田の交換態カリウム含量は食用米水田よりも低い値を示した。そのうち2圃場では100 mg/kg未満であった。易分解性有機態窒素含量も交換態カリウム含量と強い正の相関(r=0.85, n=39)を示した。有効態リン含量は適切な範囲にあった。各圃場の砂含量は大きく変わらなかったため、この結果は飼料イネ水田での地上部の持ち出しによると推測された。 2)上記の土壌を用いて、その有機物含量が試料の色から推定できるかどうかを評価した。土色計で測定された明度と全炭素含量の決定係数は0.10となり、明度から有機物含量を推定することはできなかった。そこで市販のオキシドール(過酸化水素を2.5~3.5%含有)を土壌に添加後に、室温(25℃)で40時間反応させた後に、簡易型の電気伝導度計を用いて、上澄み液の電気伝導度を測定した。その結果、上澄み液の電気伝導度との決定係数は全炭素が0.71、全窒素が0.68となり、高い推定精度を示した。この結果を踏まえて京都大学附属高槻農場の水田作土試料を供試した結果、同様の知見が得られた。 3)作物収量と土壌肥沃度を改善できる土壌管理の一つとして、燻炭(バイオマス炭化物)の施用効果に対する学術界の反応を文献調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌の有機物含量は、環境条件や粘土鉱物種などの影響を受けるが、窒素供給能や養分保持能に大きな影響を及ぼすため、農耕地土壌の地力維持に関して最も重要な測定項目である。市販のオキシドールと電気伝導度計を用いて土壌の有機物含量を推定できたという知見は、土壌の質を農家自らが評価できる手法として役立つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)H26年5月に作土を採取した御船町の食用米水田と飼料イネ水田(各4筆)を定点調査圃場として、今年度の5月にも同地点から作土を採取し、2年間での地力の変化を調べる。また5月と10月にはコムギと水稲の地上部試料を採取し、収量と養分持ち出し量を評価する。それらの結果を踏まえて、土壌養分の収奪という点で食用米水田と飼料イネ水田はどの程度異なるのかを評価し、飼料イネ連作水田で地力を維持するために必要な施肥量と方法を検討する。 2)御船町の飼料イネ水田と京都大学附属高槻農場の水田から採取した作土を用いて、閉鎖系のポット試験を行う。現地で行われている栽培を想定しながら、最も収奪的な管理を行った時に地力がどのように推移するのかを明らかにしたい。そのための処理として食用米品種のヒノヒカリと飼料イネ品種のミナミユタカを用いて、無施肥で栽培し、地上部を全て持ち出した時の地力の変化を少なくとも2年間に亘って評価する。その改善策として牛糞堆肥の施用効果についても評価する予定である。 3)御船町での飼料イネ栽培は2000年頃から始まったものだが、国内産の粗飼料への志向を考えると今後もしばらくは継続される可能性が高い。現在の栽培は主に転作補助金によって支えられているため、粗放的な栽培が行われている。しかし粗飼料として持ち出された土壌成分を堆肥などで還元することを強く奨励しなければ、地力が低下することによって持続的な栽培が難しくなる可能性があることを圃場及びポット試験のデータに基づいて提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費が追加採択であったため、昨年度に実施した現地調査のための旅費を支出できなかったことから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の成果発表を今年度から始めることができそうなので、次年度使用額の一部は学会発表のための旅費と論文投稿代に使用する予定である。
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