本研究は、C6-C3構造を基本骨格とする機能性芳香族モノマーをリグニン含有バイオマスから酵素生産する系をデザインすることを目的としている。これまでに、リグニン内の主要結合であるβ-O-4結合の特異的開裂に必要な5つの酵素とそれらに共通する反応条件を見出した。続いて、使用酵素群の1種であるグルタチオン転移酵素(GST3)について、その反応機構への理解を深めるために、結晶構造解析を行うこととした。高品質な結晶を得るため、H29年度にGST3にアミノ酸変異を導入し、H30年度にはそれらの結晶化条件の最適化に注力したが、H29年度までに得られた結晶の品質を超えなかった。最近、USAの研究グループからGST3と同様の酵素活性を示し、GST3に対して38%のアミノ酸配列の一致性を示すグルタチオン転移酵素(NaGSTNu)の結晶構造が発表された。NaGSTNuは、GST3と同じNuクラスに分類されるが、両者はサブクラス分類では異なっている。今後、本課題で得たGST3構造情報と既発表のNaGSTNuのそれとを比較し、両者の基質認識の共通点や相違点について理解を進める予定である。 一方で、本研究で取得した酵素タンパク質群の組換え生産系の再検討を進めるとともに、リグニン含有バイオマス原料についても検討を進めた。サトウキビの搾り滓(バガス)をアルカリまたは酢酸で処理したスラリーの可溶性画分に対し、酵素群を作用させたところ、目的の芳香族モノマー生産が認められた。バガスは世界中で大量に排出されるリグニン含有産業廃棄物の1つであることから、本課題で得た酵素による機能性芳香族モノマー生産系を工業利用できる可能性を示すことができた。
|