最終年度には、十分なサンプル数による長期の調査と、小規模サンプルによる短期の調査を行った。長期の調査では、水使用量の提示方法として、過去の自身(自宅)の水使用量との比較を行った。調査対象家庭は4群に分け、2週間に1度、半年間の提示を行った。4群は、①コントロール群、②数値による提示群、③青い水滴マークによる提示群、④使用量の増加率が大きくなると警告色(黄色、赤色)の水滴マークを提示する群、である。その結果、④の群で短期的に水使用量の減少傾向が見られたが、長期的にはその効果は消失した。②③群では、水使用量がコントロール群に比べてやや増加傾向を示した。 短期の調査では、共有財産としての水資源の提示およびゲーミフィケーションの利用を試みた。その結果、共有財産の提示は使用量のピークカットに貢献する可能性が示唆されたため、今後、長期の大規模調査により検証する必要がある。ゲーミフィケーションの利用は、非常に短期的効果のみ観察された。 研究期間全体を通じて、社会的規範(近隣の他家庭との比較)を用いて水使用量をフィードバックする方法と、過去の自身の水使用量との比較を用いて水使用量をフィードバックする方法(上記に詳述)を行った。社会的規範の提示に際しては、水使用量の多寡を、数字、平均値、顔文字を用いて表現し、その効果を比較した。更に、比較する「近隣の他の家庭」としてどのような範囲を指定すると水使用量に影響があるのかを検証した。その結果、漠然とした「東京通勤圏の住民」と顔文字を用いて比較した場合に、水使用量が減少した。 世界的に見て、このような研究はこれまで水不足が深刻な一部の地域でしか行われてこなかった。スマートメータの普及が日本でも想定されるようになった今日、水資源がひっ迫しているわけではない日本での知見を得ることは、人々への水使用量のフィードバック方法を考える上で重要である。
|