研究課題/領域番号 |
15K00660
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
三宅 博之 北九州市立大学, 法学部, 教授 (60211596)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 廃棄物管理 / 社会配慮 / バングラデシュ / ダカ / 有価廃棄物回収児童 |
研究実績の概要 |
廃棄物管理の社会配慮面には、有価廃棄物回収人・回収児童の仕事や人権問題、清掃人・清掃業への偏見や差別の撤廃、さらには区域の廃棄物に係るステークホルダーなどによるガバナンスの問題があり、それらは相互に係り合いを持っている。その実態を調べることが本研究の目的である。3年目(最終年度は4年目)は、次の2つを行った。 1つめは、2年目に行った有価廃棄物回収児童の調査結果をもとに成果として活字にした(「廃棄物回収児童への社会配慮に関する一考察」『広島大学現代インド研究~空間と社会』第8号)。そこでは児童労働の禁止を強化する労働法によって、以前に比べ廃棄物回収児童の数は減ったが、依然まちの界隈で見られ、10~11歳前後の児童が従事していること、男子が圧倒的に多く、夜遅くまで働いている者も見受けられることが発見された。また、彼らの多くが学校に通っていたが、教員などの偏見もあり、中途退学を余儀なくされたといった学校教育の在り方を問うような問題にも関連している。彼ら・彼女らは、楽しさや安全のためグループ行動をとることが多く、また、販売先としては子どもに対して正直に対応してくれる仲介業者を探し出していることに見られるように、自己防衛や自らのセーフティネットを考慮に入れている。家計を助けるために働いていることは言うまでもない。彼ら・彼女らの保護や教育を行っているNGOの活動も紹介し、今後の方向性を示しておいた。 2つめは、清掃人コロニーでの清掃人の社会経済状況の調査である。2005年に新しくできたコロニーでの清掃人への聴き取り・アンケート調査をこなった。4年目はムスリムとは異なったインドをルーツに持つ清掃人コロニーを調査している最中である。両者を比較することで、親の世代と子どもの世代の職業観の相違、両コミュニティの違いなどが現れると考えられる。そのことは、現在、分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は3年計画、すなわち、実質的に昨年度の年度末に研究は終了している予定であった。しかし、2年目に調査対象地のダカにおいてIS関係者による日本人を含む外国人射殺といったテロ事件が起きたため、現地での調査を延期し、計画の変更を余儀なくされ、結果、4年計画に変更した。1年目は、文献収集や聞き取り調査を含む予備調査を中心に行い、2年目の後半には有価廃棄物回収児童の社会経済調査を行った。 3年目には同テーマの調査分析を通してまとめる作業を行った。同時に、清掃人の労働環境や居住環境に関する調査を1つのコロニーで行った。当初は、同コロニーに多数居住するムスリム(イスラーム教徒)の清掃人だけに焦点を当てて、分析する予定であったが、植民地時代にインドから移動してきたヒンドゥの清掃人から構成される他のコロニーも調査対象にすることが可能になったので、行うことにした。3月のバングラデシュ訪問時から調査を開始し、現在も実施している。 このように、他のコロニーの調査機会も得たため、当初の研究計画に少し遅れることになるかもしれないが、どの研究者も行っていない異なった民族の清掃人の比較を遂行したい。両者の比較を通じて、民族的な、職業上の差別がどこまで一般のダカ市民に現れているかを検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年にあたるので、残された次の作業を実施する予定である。一つは、昨年度に行った清掃人の社会経済状況(労働と生活)調査の分析を行い、活字にする予定である。特に、ムスリムの清掃人コロニーの場合、8年前にも同様の調査を行っているので、この8年間の変化を発見することが可能であり、他方、ヒンドゥやクリスチャンの清掃人とも比較ができ、ムスリムが多数を占めているダカ市において両者の社会経済的状況の相違を発見することができるかもしれない。 二つめは、9月に区域廃棄物管理に関する各ステークホルダーに対して聞き取り調査を行う予定である。区域の廃棄物に係る社会環境をどのようにとらえているのかを質問する予定である。それらをまとめた上で、社会配慮の各側面がどのように絡み合っているのかをまとめてみたい。特に、社会関係資本を研究している研究者に対して、地区内ガバナンスをどのように理解しているかについて聞き取りをしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目に調査対象地のダカ市でISによるテロ事件が起き、渡航及びそれに伴う調査を延期せざるを得なかった。よって、半年から1年ほど予定していた計画が遅延することになった。結果として、研究期間を一年間延長することになった。 最終年にあたる今年度は、9月にバングラデシュに出かけ、区域における廃棄物管理に関するガバナンスを調査する予定である。具体的には、各ステークホルダーへの聴き取りと当該区域のガバナンスの構造を調べることである。予算が残っていれば、再度、出かけ、取りこぼした情報を得るために最終調査を行う予定である。
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