研究課題/領域番号 |
15K00672
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
加藤 久明 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究推進支援員 (50536109)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地域水環境 / 簡易測定手法 / 生活用水 / ボトル水 / 当事者主体 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、インジケーター地域の選定、現地ステイクホルダーとの十分な協議を経た現地測定・資料収集・聴き取り調査の実施、現地ボトル水の水質評価および先行研究レビューを基本とした活動を行い、事業2年目に求められる実績を得た。各種の検討を行うため、国内では年度内に5回の研究会ならびに試料測定に関する意見交換会を複数回にわたって実施し、海外とはアンゴノ市保健局Mr. Gilbert Merino氏を中心とした関係者と意見交換を重ねた。 1.国内における検討を経て、平成27年10月8日~12日には、アンゴノ市保健局関係者と共に、大腸菌検出率から割り出した市街地4地域ならびに山間部1地域に対するモニタリング調査を行った。同時に、アンゴノ市域のみで製造・販売されているボトル水についても試料収集を行った。 2.調査結果の概略は、次のようになる。 (1)開放型の井戸は総じて大腸菌が100ml に100~500MPN以上(最高は2400MPN以上/100ml)と高く、飲用はもちろんのこと、洗濯や水浴などにも不適当である。閉鎖型の井戸は、総じて開放型よりも大腸菌群数が低く、新たに蓋が付与された井戸とそれ以前の比較を行うと、大腸菌数に300MPN以上の低下が見られた。 (2)水道水(Manila Water)は総じて良好であり、ランダムで採取した試料のすべてに大腸菌の検出と認めることができなかった。また、ローカルなボトル水は総じて水道水をろ過処理したものであった。さらに、代表的なボトル水を分析したが、問題となる重金属などは発見されなかった。 3.現地側との協議を経て市内にインジケーター地域を選定し、自主的な組織として"Angono Water Quality Association"が立ち上がったことは、予期せぬ大きな成果であった。その成果は、政策情報学会研究大会で報告済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は、現地調査から得られた結果などを含めて、平成27年度に定めた当初研究計画の課題に対して十分な進捗を得ていると考えている。特に、地域水環境に対する日本側研究者と現地関係者(保健局関係者、現地関係者、大学関係者)との水質を中心とした認識の差異について、相互の対話と認識のさらなるすり合わせを図ったことは、現地関係者の疑問に先行研究だけでは説明できない科学的根拠を持った詳細な説明を行う必要性を発生させた。これについて、研究代表者である加藤と共同研究者である丸山博士(日本経済大学)を中心として、当初の付帯的な研究であったボトル水研究をサブテーマに発展させ、重金属リスクの有無と解明に関する検討を井戸水と河川水などに拡張をして研究を実施した。これらの成果は、H28年度に"Environmental Geochemistry and Health"誌へ論文を投稿する予定である。さらに、アンゴノ市が接するラグナ湖の基礎的な水文情報を明らかにするため、丸山博士が過去の研究から得た酸素水素安定同位体データを援用し、現地へのステイクホルダー会合への説明資料として、"Water"誌に論文を投稿する予定である。 また、現地との議論を重ねながらも様々な関係者から提起される重金属などへの疑問については、丸山博士を中心としたサブテーマの科学的研究成果を洗練し、これを国際誌に採択される成果として取りまとめた後、現地向けの説明資料を作成することで対応していく予定である。さらに、現地側から研究成果を一般向けに説明する簡易な冊子作成の依頼を受けており、日本側研究者を中心にこれを作成中である。 以上のような状況から、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ボトル水研究をサブテーマに昇格させたが、基本的に当初から必要な研究課題と位置づけてきたこともあり、当初の研究計画を変更させる必要はないと考えている。平成28年度から、代表者である加藤が大阪大学へ異動となったものの、研究体制に変更の必要はなく、これまで通りに研究を進める。 また、前年度まで試料分析に関する協力を得てきた京都大学平田教授が東京大学へ異動となり、高度な分析に関する環境に変更が生じたが、これについては代表者の所属機関である大阪大学の学外利用や外部機関への分析外注をもって対応する。同時に、東京大学平田研究室との持続的な連携可能性についても先方の研究体制が整い次第、必要な協議を行うものとする。分析環境に変化が生じることは、当初から想定済みであり、簡易分析をメインテーマとする本研究に必要な基礎データは初年度に得ている。しかしながら、サブテーマの研究実績が予定以上の結果を見せているため、国際誌への論文投稿・掲載を目指して必要な基礎データ蓄積を目指すものとする。 さらに、現地当事者との連携事業として、本年度はアンゴノ市において当初の研究計画を前倒したステイクホルダー会合を開催する予定である。これらの事業と並行して、現地における共同調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、研究活動を進める中で当初の研究計画よりも早期に国際誌へ投稿可能な研究成果が纏まりつつあり、その投稿料が必要となったために共同研究者と共に予算の節減に努めた。これによる研究計画への影響は無い。また、フィリピン側の協力により、人件費・謝金についても節減をすることが可能となったことが、次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
基本的に、発生した次年度使用額は、国際的な成果報告に用いる予定である。具体的には、水質分析に関する研究成果を国際誌である"Water"誌に投稿するため、投稿料を中心に次年度使用額分を充当する予定である。また、為替変動による使用額が発生した場合には、"Water"誌以外の国際誌への投稿経費に使用する。
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