欧文においては、起筆・終筆部の突起(セリフ)や縦横の字画(ストローク)の抑揚を残した書体がローマン体、セリフが無くストロークの太さが均一な書体がサンセリフ体と呼ばれてきた。和文でも同様なスタイルが存在し、それぞれ明朝体、ゴシック体と呼ばれている。一般に、前者は文章を目で追って内容を理解する長文に適し、後者はひと目で短文や単語を把握する見出しに効果的とされ、用途に応じて使い分けられる傾向にあった。 先行研究の一部では、これまで行われてきた比較の多くがセリフの有無というよりもスタイルの違いが大きいとする新たな視点が示される一方で、セリフをもたないサンセリフ体やゴシック体が長文組版においてもローマン体や明朝体に匹敵する性能をもつとするいくつかの報告がなされている。この点に着目し、前年度までに行った資料調査と実践的考察を踏まえつつ、当該年度はローマン体とサンセリフ体、ゴシック体と明朝体をそれぞれ比較することによって、セリフの有無とストロークの抑揚が読みやすさにどう影響するかについて追究した。 まず、欧文書体の読みやすさに関する文献の中でも、とくにサンセリフ体を中心とした実験や評価に関する文献を調査した。活字からデジタルフォントにいたる技術的な発展とともに、サンセリフ体がいかにその用途を拡大し性能を発揮してきたかを整理した。その上で、長文組版におけるゴシック体の可読性の評価を目的とし、同一フォント名を有する明朝体との比較実験を行なった結果、レギュラーのウエイトにおける小さいサイズではゴシック体が明朝体に匹敵する結果になったことを示した。
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