本研究では,デザインされた人工物に対してわれわれが認知する魅力や価値の評価について,一つはNorman(2004)が提唱する本能レベル・行動レベル・内省レベルの処理が影響するかを,もう一つはそれらの処理が二重過程理論とよばれる情報処理プロセスによって説明できるかについて検討を行った。 研究の結果,本能レベルと内省レベルの価値について,それらの情報が人工物のデザイン評価にどの程度影響を与えるかについての研究では,主に審美性に関わる本能レベルの評価がユーザーにとって重要な情報であることが示されたが,内省レベルの評価は重要な情報と認識されにくいという結果が示された(荷方,2016)。この結果について,人工物の提示する情報について,評価者が受ける共感的情報を操作し,共感性が評価に与える影響についても検討が行われたが,共感性が人工物の評価に影響を与えるという一貫した結果についても得ることができなかった(荷方,2018)。また二重過程理論に関する検討については,行動レベルと呼ばれる評価について直観的処理との相関が高いとの結果が得られたものの,その他のレベルでは関連が低いことが明らかになった(島田・森下・荷方,2016)。 これらの結果は,近年ユーザ・エクスペリエンスなどの概念でその役割が注目されている人工物の内省的情報が,人工物の評価において必ずしも強い影響を持つとはいえないことを示唆している。あるいは,影響を持つためにはそれが機能するための条件が必要である可能性を示唆している。今後の研究課題として,人工物に対してわれわれが付与する意味的情報をより精緻に分析し,これらが評価に対して影響を与える条件についての解明があると思われる。
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