本研究では、博物館展示資料の3Dスキャナによる立体形状測定、3DCADによる欠損部分の補修や表面凹凸形状(デジタルシボ)設計、3Dプリンタによる模型制作等、Rapid Prototyping手法を展示支援へ活用する事例を複数実践した。これによる、デジタル立体造形技術が博物館の展示支援へ活用できる可能性の提案と、観覧者のユーザーエクスペリエンス向上効果評価を目的とした。 具体的な実践事例は、ユニバーサルミュージアムで活用するための大きさや表面形状を正確に再現した触れる模型、実物形状の拡大・縮小模型、欠損部を持つ資料を3DCADでデジタル復元した補修模型、模型にNFCタグを埋めこみ、スマホやタブレットでタグのURLを参照して説明を表示する模型等である。視覚に障がいを持つ人がデジタルシボを触り、点字ではなく感覚的に色を感じる手法提案としての基礎実験と絵画の試作を行った。 29年度は、3D模型の展示が、観覧者に与える影響を、名古屋市博物館において、CAP型のモバイル視線解析装置を装着した、観覧行動測定実験を実施して分析を行った。実験参加者全員、ケース外に設置した模型に手を触れており、加えてケース内に設置された資料も注視していた。資料の前での滞在時間は模型が無い時と比較して、模型に触れている時間分有意に長くなっており、触れる模型が資料の注視の妨げにはならないことが確認できた。また、3Dデジタル造形手法について、切削型、樹脂の積層型、レーザーによる樹脂の硬化型を比較し、資料の素材をそのまま再現するためには切削型、表面の微細な傷などを正確に再現する場合アクリルを素材とした切削やレジンを素材とした光造形が適している等、それぞれの特徴を明らかにできた。
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