本研究は、アイデアの生成と発展を促進する要因を検討した。本研究では、創造的な発想がどのように着想され、どのように発展して新しいアイデアの着想に結びつくのかということについて三つの検討を行った。 一つは、創造的思考における観察の効果である。近年新製品開発の場面などでユーザの「観察」を行うことの重要性が知られている。本研究では「観察」をすることにより、これまでにない具体的な気づきが生まれ、それが独創的なアイデア生成に結びつくのか、あるいは、観察せずに抽象的な思考に基づいてアイデア生成を行うことが独創的なアイデア生成に結びつくのかを検討した。その結果、気づきの項目数や新しいアイデアの生成数は、観察する方が多く生み出された。生成されたアイデアは実現可能性は高いが独創性は低いという結果となった。観察をすることは、普段何気なく行っている行為に関する気づきを喚起するが、そこから生成したアイデアの独創性を高めるわけではないことが示唆された。 二つ目は、専門家が専門性の枠を超えた活動をする過程を分析した。その結果、多様な価値観を持っている専門家は、多様な価値とのギャップに対する気づきがあり、その気づきを元に、専門分野の活動を新しく改革していくという過程が観察された。イノベーションのための活動には、課題に対する新たな気づきとそれを進めるための動機付けが必要であることが示唆された。アイデアの発展のためには、生成した考えを説得的に伝達することが重要である。 三つ目に、さまざまな問題に対する立場がどのようなメカニズムで決定されるかについての要因を検討した。その結果、人は必ずしも理性的に意思決定を行うわけではなく、感情的な要素、価値観の要素が多く影響することが見出された。イノベーションのためのアイデアの普及には、人の意思決定のメカニズムについてより深い理解が必要であることが示唆された。
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