視覚障がい者にとって環境音や空間の響きは、場の状況を示す情報源という面を持っている。また、音響福祉機器からのサイン音も大切な情報源である。バリアフリー新法の制定以降、公共的な場で音を用いた案内・誘導システム(以下、音響福祉機器と呼ぶ)の数は増加の一途をたどっている。 一方で、晴眼者による苦情から音響福祉機器の音が聞こえなくされていることがある。そのため、せっかくの音響福祉機器の音が過剰に小さくされたり、停止されていたりすることがある。このように、しばしば視覚障がい者の立場は、晴眼者の立場と対立することがある。 本年度における研究では、下記の視点から検討を行った。(1)スマートフォンなどモバイル端末を用いた音響福祉機器に対する認識調査、(2)音の回折効果を用いた環境調和型サイン音の提案、である。 上記の検討から、音響福祉機器の所在とその場の音環境を可視化するスマートフォンのアプリ開発をほぼ終えることができた。そのアプリを用いたいくつかのケーススタディによってその有効性を確認した。また、音の回折効果を利用することで空間を分節化することが可能であるかをバンドノイズのような音だけでなく、和音や間欠音によっても可能であることが示された。 本研究では、晴眼者と視覚障がい者の要求の対立を解消し、両者の共存を図るうえで必要ないくつかの視点を導出した。いずれも現在のユニバーサル社会のおける音環境デザインの基礎となるものであり、今後の社会的実装が望まれるものである。
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