当研究は、「神戸洋家具産業」を代表事例とする自然発生的・自律的なデザイン事象「スポンテニアスデザイン」の特徴に注目し、他事例との比較分析により、今後の研究の布石となる発想プロセスと作用した要因の類型化を図ることを目的としている。「神戸洋家具産業」のように人々の活動の現場から生まれたデザインは、我々の生活文化に大きな影響を残しながらも、無名性・匿名性からデザイン学の視点で学術的に取り上げられる機会が少なく研究の空白領域となっているケースが多い。また、スポンテニアスデザインは、今日支配的なマーケットインの制度的デザインに対置し、変化に柔軟な自律的な構造を生来的に保持している側面がある。 本年度は、これまでの神戸洋家具産業の発祥と変遷の過程から分析・整理した時代毎の「事業化経緯」と「社会的有用性」を基底として、発想視点によるデザインプロセスを一般的・汎用的な概念図として抽出・整理した。また、神戸洋家具産業以外の特徴的な地場産業・地域産業を比較事例として典型的な4種に類型化し、作用する5種の要因に沿って分析した。4種のデザインプロセスは、同じ産業においても併存しており、「自然発生的デザイン」は、5種の要因が複合的に作用して発祥するが、以降の成長、定着、産業化等のデザインプロセス変成時にも社会情勢や時代によって各要因が複合的に作用し、併存しながら特定のプロセスが支配的に誘導する状況が生まれ産業の特徴を決定づけていることに着目した。 査読付き学会論文として昨年度掲載済みの2編に加え、投稿中であった2編についても掲載を完了した。この4編の論文の内容を収録し、より詳細な分析を加えた「神戸洋家具産業」の発祥から変遷の過程の分析と他の特徴的な地場産業・地域産業との比較から「スポンテニアスデザイン」の発生経緯と構造特性を二部構成の科研費報告書(A4版、本文191ページ、謝辞付)としてまとめた。
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