研究課題/領域番号 |
15K00729
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研究機関 | 奈良県立大学 |
研究代表者 |
梅田 直美 奈良県立大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60618875)
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研究分担者 |
木下 裕美子 甲南女子大学, 文学部, 講師 (70434644)
木曽 陽子 関西国際大学, 教育学部, 講師 (80735209)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソーシャルビジネス / 共同性 / コミュニティ / 保育 |
研究実績の概要 |
本研究は、子育て期の親子が地域で多様な人々と共同性を育み豊かに暮らせるコミュニティ形成に向けての、ソーシャルビジネスの可能性と課題を明らかにするものである。特に、公的制度には位置づけられない小規模なビジネスに焦点を当てている。本年度は、理論研究としては、保育学、社会福祉学、社会学、経営学分野を中心に先行研究を整理し、これらの分野の研究成果をソーシャルビジネスを軸として結び付ける研究枠組みの検討に着手した。事例研究としては、日本については起業者・スタッフと利用者との共同性および公的制度との補完/代替関係に着目した調査を行った。ソーシャルビジネスを通じては、公的な子育て支援制度の利用で生じる支援者/被支援者という関係とは異なる、サービスの提供者/利用者という関係が築かれ、公的制度の利用をためらう親子も利用しやすい場が創出されていた。一方で、利用者の顧客意識により生じるトラブルなど共同性創出にあたっての課題も見出された。フランスについては文献収集と現地調査を行い、ソーシャルビジネスとして位置付けられる保育サービスとは何かを検討し、当事者が参加するコーポラティヴ型保育、小規模保育所(ミクロ・クレッシュ)、保育ママが該当することが見出され、それらの運営内容の調査や今後の調査対象者の選定、関係機関スタッフや保育ママとの面会、自治体ワークショップへの参加、今後のインタビュー調査依頼等を行った。スウェーデンについては、ワーク・ライフ・バランスや女性の労働について現地の研究者らと議論し、日本では企業等のジェンダー規範が強く子育てと両立する働き方が難しいためソーシャルビジネスなどの新しい働き方の必要性がより強いことが確認された。また、スウェーデンでは起業者が自らの事業実績を踏まえて政策を提案し、それに予算がつくと行政の代わりに実施するしくみがあり、こうしたしくみづくりの重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、理論研究と事例研究および研究会の立ち上げ、人的ネットワーク構築といういずれの課題に対しても、概ね予定通り実施することが出来た。国内では事例リストの作成及び典型事例の抽出と調査を実施したほか、関西地域のソーシャルビジネスの実務家および中間組織との連携基盤をつくり、今後本研究の成果をもとにビジネスモデルのあり方を検討していくための準備も出来た。また、フランスおよびスウェーデンでの調査および情報収集、研究交流も実施し、次年度以降のさらなる調査と分析につなげる準備が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究としては、前年度に実施した先行研究整理と事例調査で得られた知見をふまえ、実践家や他分野の研究者も交えながら、子育てコミュニティとソーシャルビジネスについて包括的に研究するための理論的枠組みの検討を継続していく。事例研究としては、前年度に実施した調査結果をふまえながら、さらに掘り下げた調査を行っていく。日本では、前年度に引き続き、公的制度には位置づけられていない個人事業のビジネスに着目し、それらのビジネスを通じて生み出される共同性のあり様や、地域コミュニティとの関わりに着目した調査分析を行う。さらに、特別な支援が必要な家庭のニーズや育児の孤立化への対応などを含め、公的制度では対応しきれない多様なニーズに対してソーシャルビジネスが担う役割に注目した分析を行う。フランスでは、保育の多様性を捉えながら、①コーポラティヴ型保育、②小規模保育所、③保育ママを対象としたインタビュー調査を進める。前年度の現地調査の際に、調査対象者(加盟ネットワーク機関のスタッフや保育ママ、活動を支援する社会的アクター等)の選定および調査依頼準備を進めているため、それらの対象者を中心に調査を実施する。スウェーデンについては、子育ても含めて公的福祉制度が整っている中で、ソーシャルビジネスを通じて新たに提供されるサービスは公的サービスとどのような補完/代替関係にあり、社会システムの中でどのように位置づけられるかなどについて分析する。ドイツでは、多世代ハウスや女性、移民等による新たなコミュニティ創出の動きに着目した研究を行う。以上のそれぞれの研究成果を研究会において発表・議論することにより、最終的には、子育てコミュニティとソーシャルビジネスについて研究していくための理論的枠組みを整理・概念化するとともに、子育てコミュニティ形成に向けてのソーシャルビジネスの可能性と課題の抽出、ビジネスモデルの検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の調査旅費の一部を、調査担当者の各所属機関の他の研究費から支出することとなったため、その分を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進捗状況にあわせ、再調査のための旅費、または、研究成果を学会で発表するための旅費として使用する計画である。
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