本研究の目的は、現代日本に生きる個人にとって身につけることが求められるリテラシーとして「生活リスクリテラシー」を位置づけ、その視座を明らかにするとともに実践モデルを開発することである。研究は次の課題から構成される。(1)生活リスクリテラシーの概念の明確化、(2)生活リスクリテラシーの具体的内容の整理と提示、(3)生活リスクリテラシーに関する社会人向けの教材の開発と授業実践、(4)日本社会にあった生活リスクリテラシーの涵養にむけての今後のマイルストーンの検討。 29年度においては、課題(3)について27、28年度に行った研究授業データ分析・考察を行い、課題(2)に戻し入れ教材を更新した。さらに同教材を用いてあらたな研究授業を3クラス(80分×8回。受講者計176人)を実施した。全体の授業内容と授業評価を分析・考察したうえで、再び課題(2)ならびに課題(1)に戻し入れるとともに、課題(4)と全体のまとめを行った。 平成27、28年度に実施した授業から得た授業評価データを分析し、自由回答をテキストマイニングした結果、学習者はリスクの様相・認知・対処の3つの観点区分およびリスクマネジメントの意義と手法を再認識していた。さらにはリスク認知の多様性ゆえのリスクコミュニケーショ ンに意義を認め、具体的手法を理解したことに対する大きな満足感が認められた等が分かった。同時に、自らの生活現場(職場、地域、家庭)に即適用可能な素材を扱って欲しいとのさらなる学習ニーズが抽出された。同ニーズを教材に反映させたうえで、29年度にあらたな研究授業を実施したところ、受講により生活リスク全体に対する理解と実践の程度が高まったと自己評価するものが9割を超える結果となった。研究成果は、国際会議報告や放送授業の新規開設、また20歳前後の大学生のリスク講座への展開(全国大学生協連との協働)等というかたちで行った。
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