研究課題/領域番号 |
15K00746
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
田中 元志 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (50261649)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生活活動音 / 足音 / 広周波数帯域 / 時間-周波数解析 / 特徴抽出 / クラスタリング / 確率モデル |
研究実績の概要 |
音による家屋内の異常検出を目的に,広周波数帯域幅(100 kHz)のマイクロフォンを用いて,日常の生活活動音(生活音)を採取し,ヒトの可聴周波数20 kHz以上の帯域の情報の利用とその可能性について検討を行った。足音については,歩行検出の特徴になると考えられる音高の抽出を試みた。なお,秋田大学の倫理審査委員会の承認を受け,被験者の同意を得たうえで生活音などの録音を行った。主な成果を以下にまとめる。 (1) 生活音のクラスタリングと確率モデル化:男性1人暮らしのアパート内での日常における生活音を録音(サンプリング周波数192 kHz,周波数帯域幅80 kHz)した。平成27年度の結果を基に,解析フレーム長500 ms(ハミング窓),フレーム周期250 msとし,FFTによる時間-周波数解析を行った。可聴周波数以上における周波数スペクトルの包絡形状は音によって異なった。その特徴量抽出を検討し,帯域80 kHzを15個のサブバンド(三角窓)に分割し,各バンド内の総電力を特徴ベクトルとした。これを最長距離法でクラスタリングし,クラスタ毎に領域を設定して,内側と外側で2種類(異常の可能性が小と大)のシンボルを出力する確率モデルを作成した。3フレーム間の状態遷移を見る2重マルコフモデルを考え,状態数とクラスタの設定条件を変えて,生活音の発生確率を求め,比較した。その結果,発生確率はイベントに対応して変化し,クラスタの領域を狭めるほど,また状態数を増やすほど,小さくなる傾向が得られた。 (2) 足音の特徴抽出:本学理工学部1号館の廊下で被験者5名の足音を,(1)と同じ装置で録音した。一般化調和解析による時間-周波数解析を行い,5フレーム連続する周波数成分を抽出して,感じる音高について主観評価試験を行った。その結果,比較的振幅が大きい成分の周波数を音高と感じる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は,生活活動音の広帯域周波数解析結果からの特徴抽出とその分類,および確率モデル化についての検討を中心に行った。採取できる音,つまりクラスタリングに用いた音は全て日常の生活活動音である。そのため,めったに発生しない音を非日常的な音(異常時の音)の候補として識別できるように,各クラスタに領域を設定し,領域外を非日常音と識別する確率モデルを検討した。そして,これを用いて,音の発生確率を求めた。しかし,クラスタおよび状態の数,クラスタに設定する領域の大きさによって音の発生確率が異なり,異常検出のためにはそれらの設定値を適切に決める必要がある。また,そのための評価法についても今後の課題となっている。足音については,比較的振幅が大きい成分の周波数を音高と感じる可能性が示唆されたが,被験者間の一致率は小さかった。足音には多数の周波数成分が含まれており,被験者によって感じ方が異なる可能性がある。さらに詳細な検討,および被験者を増やした検討が必要と言える。また,可聴周波数20 kHz以上の帯域における特徴とその抽出についての検討も必要と考えられる。これらについての検討については,平成29年度の計画に組み込んで行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,平成28年度に試作した確率モデルを用いた異常検出の方法(アルゴリズム)の検討を主に行う。ここでは,未学習音や,めったに発生しない音の発生確率は小さく,また活動がない場合は発生確率の変化が小さくなるように確率モデルを設定する。このとき,被験者および場所に応じて,クラスタおよび状態の数,クラスタの領域設定の大きさを決定する方法についても検討を行う。そして,発生確率の時系列変化を観測することで,異常か否かを判別する方法を検討する。このとき,時間-周波数解析から求めることができるSpectrum Flux,MFCCなども異常検出アルゴリズムに利用することを検討する。評価に用いる異常音の例としては,悲鳴や転倒を模擬した音などを用いる予定である。足音については,広帯域周波数解析を行い,可聴周波数20 kHz以上における特徴も含めた特徴量の抽出を試みる。そして,歩行の有無などの検出・判別方法についても検討を行う。 上記と並列して,広帯域マイクロフォン,オーディオインターフェース,ノート型コンピュータで構成する,リアルタイム処理が可能かつ可搬なシステムを検討する。処理プログラムの開発にはMatlabを用いる。これに本年度検討する異常検出アルゴリズムを組み込み,評価と改良を加える予定である。 なお,本研究では,必要に応じて,被験者を用いた音の採取,および主観評価試験を行う。そのため,本年度においても秋田大学倫理委員会の承認を受けた。
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