独居生活者の家庭内における事故などの異常検出を目的に,足音や生活活動に伴う音(生活音)を広帯域で記録(周波数帯域幅80 kHz,サンプリング周波数192 kHz)し,解析フレーム長500 ms(ハミング窓),フレーム周期250 msとして時間-周波数解析を行った。それらの結果から特徴量を抽出し,異常候補を検出する方法(アルゴリズム)について検討を行った。なお,秋田大学の倫理審査委員会の承認を受け,被験者の同意書を得たうえで生活音などの録音を行った。以下に成果をまとめる。 (1) 理工1号館廊下で採取した足音(被験者5名)については,可聴周波数以上における特徴的なスペクトルの変化を検出できなかった。 (2) 男性1人暮らしのアパート内で録音した日常生活音(被験者1名,約6時間)の確率モデルを作製した。パワースペクトルの帯域80 kHzを15個のサブバンドに分割し,各バンド内の合計電力を特徴ベクトルとして最長距離法でクラスタリングした。クラスタ毎に領域を設定し,領域の内側と外側で異なるシンボル(異常の可能性が無と有)を出力させた。音の発生確率は,この確率モデルを用いて3フレーム間の状態遷移から求めた。 (3) 音の発生確率,Spectral Flux,および12次MFCCsのマハラノビス距離を求め,これらの時間変化の観察から異常候補を検出するプログラムを試作した。異常を模擬した音として「転倒後数分間動かない場合」10音と「悲鳴を含む音」5音を用意し(各約6分),各パラメータにしきい値(判別条件)を設定し,イベントの検出を試みた結果,発生確率がよい成績であった。試験データ数が少ないが,事故などの状況を検出できる可能性が示唆された。 (4) 上記の異常候補検出プログラムを搭載した,広帯域マイクロフォン,オーディオインターフェース,ノート型コンピュータで構成される可搬なシステムを試作した。
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