研究課題/領域番号 |
15K00754
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
弘田 量二 高知大学, 教育研究部医療学系連携医学部門, 講師 (20448385)
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研究分担者 |
水谷 千代美 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (00261058)
梶原 莞爾 信州大学, 繊維学部, 特任教授 (10133133)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 接触性皮膚炎 / アトピー性皮膚炎 / 化学繊維過敏 / マイクロバイオータ / リボゾーム16S遺伝子 / ICP-MS / ポリエステル繊維 |
研究実績の概要 |
接触性皮膚炎やアトピー性皮膚炎、健常者の汗に含まれる元素のポリエステル(PET)繊維、弱酸性ポリエステル(WAP)繊維、ポリ乳酸(PLA)繊維への吸着能の違いをICP-MSで分析した。汗の採取は30℃に設定した人工気象室内でエアロバイクを20分間漕ぎ続け発汗を促し、プラスティック製へらを使って、学生の肌の表面の汗を採取しテストチューブに保存した。また、汗に含まれる細菌DNAを抽出し、次世代シークエンサーでリボゾーム16S遺伝子のマイクロバイオータ解析をおこない、アトピー性皮膚炎7名と健常者3名における皮膚細菌叢の違いを比較した。ICP-MSでは、C, N, Al, Si, P, S, Cl, K, Ca, Feの各元素においてPET > WAP > PLAの順で20%ー50%吸着率の上昇が認められた。これらの元素が化学繊維過敏を引き起こす可能性が示唆された。マイクロバイオータ解析では、汗からRNAを抽出後リボゾーム16S DNAに特異的なプライマーでPCRをおこない増幅されたDNA配列を解読した。Proteobacteria門の存在割合は、アトピー性皮膚炎(15%)<健常者(64%)であった(p<0.05)。Firmicutes門の存在割合はアトピー性皮膚炎(72%)>健常者(15%)であった(p<0.01)。従って、この2種類の細菌バランスが崩れることにより、皮膚炎を発症している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りの理由として、被験者の汗に含まれる元素の種類・量の違いから化学繊維過敏者に共通する金属系元素を見出す計画で、皮膚への刺激が少ないWAP、PLAと刺激の強いPETの比較から化学繊維過敏を引き起こす可能性のある元素をみつける計画で、皮膚への刺激が少ないWAP PLAでは、刺激の強いPETと比較して明らかにC, N, Al, Si, P, S, Cl, K, Ca, Feの各元素において減少が認められ、これら元素が皮膚への刺激となって化学繊維過敏を引き起こしている可能性が示唆された。また、化学繊維過敏者と健常者の表皮細菌叢の16SリボゾームRNAを解析し、細菌数と種類の違いを明らかにする計画であるが、H28年度の検討ではProteobacteria門の存在割合が、化学繊維過敏者(15%)では健常者(64%)と比較して有意に少なく(p<0.05)、Firmicutes門の存在割合は化学繊維過敏者(72%)では健常者(15%)と比較して有意に多かった(p<0.01)ため、この2種類の細菌バランスが崩れることにより、皮膚炎を発症している可能性が示唆された。 このように化学繊維過敏を引き起こす可能性のある元素や細菌は本年度の観察研究により明らかにできたが、確認のための介入試験にはいたっていない。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況に記載したとおり、観察研究により化学繊維過敏を引き起こす可能性のある元素や細菌は本年度の観察研究により明らかにできたが、確認のために被験者への元素塗布や細菌塗布は倫理上困難である。従って、本年度、WAP繊維、PET繊維を比較する臨床試験により、化学繊維過敏の低減効果を調べる予定である。しかしながら、WAP繊維の供給量が少なく被験者の全てに制服を配付することが困難な状況となった。従って、被験者には、上腕部のみを覆うアームカバータイプで実施する計画である。制服の配付ができない場合に幼稚園での臨床試験を実施することは、園児の保護者の同意や園の許可を取得することが困難になる可能性がある。したがって、回避策として、その場合、共同研究者の所属する大妻女子大学学生を被験者として選定し、臨床試験を実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表のための交通費、論文作成費用が未使用であったため。また、汗から抽出したDNAでは、PCRによる細菌DNAの増幅が60%程度しか認められなかったため、マイクロバイオータ解析数が少なくなった。このため予算の差違が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
被験者数をさらに追加して、マイクロバイオータ解析をおこなう、。また、今回の結果を第一報として学術誌への投稿・学会発表をおこなう。
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