研究課題/領域番号 |
15K00767
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
江川 紀美子 日本女子大学, 家政学部, 助教 (90630781)
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研究分担者 |
定行 まり子 日本女子大学, 家政学部, 教授 (80235308)
小池 孝子 東京家政学院大学, 現代生活学部, 准教授 (50508778)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 保育所 / 認可施設 / 認可外施設 / 小規模保育事業 / 転用 / 施設整備 / 複合施設 |
研究実績の概要 |
東京都及び横浜市の保育所を対象としたアンケート調査、および事例の図面分析を実施した。調査対象の詳細は、認可保育所、地域型保育施設、こども園、認証保育所(横浜保育室を含む)、認可外保育所である。 2015年度に実施した全国の自治体の保育担当部署に対するアンケート調査より、既存施設を保育施設に転用している保育施設数が多いことが判明した。そのため、今年度の調査研究では、様々な保育形態の施設がどのような建物で事業を実施しているか、その実態を明らかにした。またこれまで明らかにされていなかった、認可施設に移行した施設の形態や、移行していない理由などから、建物や子どもの生活環境と場としての保育施設の在り方を考察した。 2015年度以降認可施設を開設した施設では、認可外の事業から認可に移行した施設が70%を超えており、特に家庭的保育や小規模保育室などから移行していることが明らかとなった。一方、認可に移行していない理由として、保護者の保育ニーズの他に、建物が基準を満たしていないことが大きな要因であることが判明した。また、地域型保育の施設建物は他の施設と複合している物が多く、集合住宅やテナント型ビルに設置されている。 既存建物を保育施設に転用した保育所は、特に小規模保育施設、認可外保育施設が多い。また活用した既存建物は、店舗、事務所となっている。転用時に行った工事内容は、トイレの設置や間取りの変更、床材の変更等で、複数個所を改修しており、保育施設として転用するには、大規模な改修工事が必要であることが分かった。しかしながら、保育施設の環境については、転用施設の方がその満足度が低く、その環境に差があることがうかがえた。 今後は、実際に既存建物の活用による保育事業を実施している複数の保育形態の施設の実地調査を行い、保育施設の生活環境と転用による施設の活用の建物計画上の配慮すべき項目を分析する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2015年度に「子ども・子育て支援新制度」が施行されたことにより、2015年度の調査を、当初予定になかった全国アンケート調査とした。その内容は、近年の待機児童の増加と保育施設の整備について、全国の地方自治体の実態を把握することを目的とし、全国の自治体の保育担当部署に対して実施した。その結果、都市部だけでなく、全国の現況を概観することができ、非常に有益な結果が得られた。しかしながら、初年度に実施する予定の保育事業者に対するアンケート調査について、二年度に実施した。ただし、当初予定では、集合住宅に複合された施設での保育事業を実施している施設のみを対象としていたが、実際には、2015年度の調査で既存施設の転用が多いことが判明した東京都および横浜市を対象とし、認可保育所にとどまらず、小規模保育施設、こども園、ひいては認証保育所、認可外施設にまで対象を広げ、調査を実施したことは、現在の保育施設が抱える課題を、保育形態に偏ることなく広く明らかにすることができた点で有意義な調査が実施できた。 しかしながら、当初二年度に予定していた子どもの生活実態と施設環境に対するヒアリング調査、参与観察調査に関しては、東京都の2園のみ、図面分析を行ったうえで実施するのみにとどまり、特に様々な保育形態を対象としての調査は今後の課題といえる。また、東京都、横浜市のみならず、他の地方自治体において、転用や複合施設の多い自治体の調査を実施予定であったが、2016年度に調査を計画したところ、認可保育施設以外の情報を得にくいことが判明した。しかしながら、転用施設は認可保育施設よりも小規模保育施設や認可外施設が多く、調査対象施設を絞ることが困難であった。東京都や横浜市以外の自治体の調査対象施設の選定が今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度、2016年度の調査を踏まえ、2017年度は、既存建物を活用した保育施設の施設責任者に対するヒアリング調査および施設の参与観察調査を実施する予定である。調査を通して、既存施設を転用した保育施設の計画上の工夫点や改修工事内容を明らかにすることで、既存施設を転用する際の計画上の配慮点をまとめる。特に2015年以降、小規模保育施設をはじめ、保育形態が多様化しているなかで、参与観察調査を通して子どもの生活実態を明らかにし、保育形態別の既存建物活用の方策を見出すことが重要であると考えている。各保育形態の事例の抽出が本研究の課題となると考えるが、その点については、2016年度の調査によって、認可保育施設、小規模保育施設、こども園、認証保育施設、認可外保育施設各園のデータがあるため、規模や地域など様々な条件から抽出し、観察調査を実施する必要がある。 さらに、集合住宅を活用した事例を抽出し、特に個人の私有物である集合住宅に、公的な保育施設を複合し、活用する際の、保育施設および住宅双方のプライバシーや生活環境の確保のための建物計画について明らかにするために、施設の観察調査や、集合住宅の公開スペースの利用実態を調査する。そして、各調査結果をまとめ、集合住宅の公開スペースや既存の建物を活用して保育所等子ども関連施設整備を可能にするための整備の手法についてまとめ、必要となる計画上の要素や改修工事などを提言する予定である。 東京都や横浜以外の地方自治体への調査も、今後の課題となると考えているが、特に待機児童の多い自治体を選出し、事例を抽出する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、子どもの生活実態と施設環境に関するヒアリング調査および参与観察調査として、施設責任者に対するヒアリング調査を実施した上で、各施設の複数回、複数名で参与観察調査を実施する予定であり、交通費および宿泊費等の費用が発生する予定であった。しかしながら2015年度から「子ども子育て新制度」が施行され、小規模保育施設など、多様な保育施設形態が実施されたことを受け、認可保育所だけでなく、小規模保育施設、こども園、認可外保育施設など、東京都、横浜市の全ての種別の保育施設に対し横断的にアンケート調査を実施したため、当初予定していた交通費および宿泊費が発生せず次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度にヒアリング調査、観察調査を予定しており、同一の施設に対し複数回調査を実施する予定であり、さらに複数の施設で実施する予定である。また調査対象施設に関して、地方自治体でも選定する予定であり交通費および宿泊費を使用する予定である。特に2015年度に実施したアンケート調査より既存建物の転用によって整備された保育施設が多い、福岡市、神戸市、名古屋市での調査を検討している。東京都や横浜市の既存施設の転用事例との差異や既存建物の用途や改修工事の内容等を確認し、転用における計画の問題点と対応策を明らかにする。
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