藍染めにおいて、藍の色素であるインジゴは水に溶解しないので、還元させて染色する建て染めという方法が通常行われている。この方法以外に、新鮮な藍植物を用いる生葉染めがある。この方法では、インジゴの前駆体で、藍植物が含有しているインジカンが、植物中に含まれる酵素のグルコシダーゼで加水分解し、生成したインドキシルからインジゴを、繊維内部で生成させて染色させる方法である。このインジゴが生成する過程で、インジゴの異性体である赤紫色の色素のインジルビンが多く生成することがあり、紫色染色が可能であるが、インジルビン生成の要因や機構の詳細は十分には解明できていない。過去の検討から、絹布の染色において、熱を加える、アルカリ性下でエタノールを添加するなどの条件でインジルビンが多く生成したが、ナイロン布の場合は、中性条件でもインジルビンが繊維内で生成することがあった。これは、ナイロンへの酸素の侵入が遅く、ゆっくりと酸化が起こるため、インジルビンが多く生成するのではないかということが示唆された。そこで、絹布でも酸化速度を抑えれば中性でもインジルビンが多く生成できるのではないかと考えた。日本の藍植物はタデアイであり、その生葉を使う染色に関する研究であるが、タデアイは乾燥すると、前駆体(インジカン)がインジゴに変化してしまうため、乾燥してもインジカンが保持される乾燥インド藍粉末を用いた。 インド藍粉末に水を加えた染色液に絹布を入れ、容器の形状を変える、窒素を充填する、水面からの深さを変える、染色液に粘性を付与する添加物(グリセリンやポリビニルアルコールなど)を加えるなど、酸素が入りにくい環境で染色を行えば、よりインジルビンの生成が促進されるのではないかと考え検討した結果、いずれの場合も酸素の入りにくい条件の方がインジルビンが多く生成し、絹布を紫色に染色することができた。
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