本研究は、澱粉食品の中でも特に多量の熱エネルギーを必要とする麺類の茹で調理に着目し、熱および水分の供給源となる茹で水の挙動が麺内部への水分移動におよぼす影響について明らかにすることで、麺内部の糊化および水分移動を速やかに進行させる条件を提示することを目指した。 本研究は当初、温水を連続的に流せる流路システムを利用する予定であったが、流量の変動が大きく、麺の茹で時間に対して安定した流量、温度条件が難しいという結果から、業務用ガスコンロと寸胴鍋を用いたバッチ式の系を主とした。この時の流体挙動の定量は、鍋内の試料麺の移動速度をビデオ撮影によって決定した。 麺内の澱粉の糊化による構造変化を定量的に表す実験では、顕微鏡で撮像した画像のRGB値をL*a*b*値へ変換するCVS法を採用した。その結果、複屈折性を有している未糊化領域と、結晶構造は消失しているが、澱粉粒が残っている領域(糊化領域)、さらに澱粉粒の形状を残さず、高分子が分散している分散領域の三段階に大別することができた。この状態は、鍋内の流れの有無に影響を受け、系内の流れがある場合は、ない場合に比べて分散領域、糊化領域が麺内部へと進行する様子が示された。さらに、別途取得した固形分溶出量は、流れが大きい場合に増加するという結果であった。 以上の結果に基づき、あらたな水分移動モデルを構築し、有限要素法による熱伝導及び水分移動解析を行った。水分移動解析の基礎式には相対含水率モデルを参考に、澱粉の上限含水率W+と実際の含水率Wとの比の勾配を駆動力とする式を用いた。上限含水率W+は,澱粉の状態に依存することから、吸水実験と熱分析法によって、上限含水率と糊化度の関係式を得た。さらに、糊化の後期段階である分散過程では、上限含水率が指数関数的に増加すると仮定し計算に組み込んだ。磁気共鳴画像法で測定した水分分布と比較したところ、解析の妥当性が示された。
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