非接触、非侵襲で、体の拘束も緩やかな高精度嚥下計測カメラシステムの開発を行った。本研究で開発した18bit、3次元計測カメラを用い健常被験者の甲状軟骨の運動データ収集を行った。これを評価データとして、嚥下波形計測のための画像処理アルゴリズムの改良を行った。甲状軟骨の凹凸が微小な被験者において、高精度な計測でも法線ベクトルの変化は微小であるので、喉表面の法線ベクトルのわずかな変化を画像特徴量として抽出し、甲状軟骨の挙上位置を計測する手法の開発に取り組んだ。単一の画像から甲状軟骨の位置を推定することは難しいので、動画像の連続情報と喉表面の法線ベクトル変化量の累積情報を用い、甲状軟骨を安定に検出できる手法を開発した。これにより、嚥下運動が確認しづらい被験者でもある程度の嚥下運動を計測することができるようになった。 また、嚥下波形の評価法の開発を行った。評価手法としてPLS回帰分析による飲み込みやすさの評価について研究を行った。ここでは、万人が飲み込みやすい飲料は常温の水であるとし、この嚥下波形が水を嚥下したときの波形に近づけば飲み込みやすいと判定する方法を考案した。嚥下計測カメラシステムで得られた嚥下波形に部分フーリエ変換を行い周波数画像とする。周波数画像を特徴量としてPLS回帰分析を行い低次元に圧縮し、水と他の飲料との比較をすると、飲み込みやすいと感じたものは水の波形に近くなるという新たな知見を発見した。 岐阜大学医学部の協力のもと、開発した嚥下評価システムで嚥下障害患者の撮影を行った。患者は女性の高齢者であったため本システムを用いて嚥下波形を得ることはできなかったが、カメラのセッティングや照明などの撮影方法や、飲料の提示、嚥下開始の指導方法などデータ撮影時に必要となる知見を多数得ることができた。
|