研究課題
本研究では,1)自然薯のプロスタグランジン(PG)E2の合成抑制効果を有する成分の単離同定ならびに,その機能性評価と分子作用機序の解明と,2)自然薯の高機能性をいかした高齢者食の開発を目指している。PGE2は,誘導型のシクロオキシゲナーゼ(COX)-2と膜結合型PGE合成酵素(mPGES)-1によって過剰に産生されることにより,炎症,癌,疼痛,神経変性疾患などを含めた慢性疾患の素因となる慢性炎症惹起に関わる炎症性脂質メディエーターである。これまでに,私達は慢性炎症予防を目指して,PGE2合成を抑制する食品機能性を探索してきた。その中で,自然薯抽出物にCOX-2とmPGES-1の発現を抑制し,抗炎症・抗腫瘍効果を有することを見出した。さらに,その効果は,ヒトの肺癌や大腸癌のモデル細胞,皮膚癌モデルマウスを用いた経口ならびに塗布の投与によって実証してきた。現在,その機能性成分を単離しているところであるが,複数の成分がCOX-2とmPGES-1,あるいは別々に作用して,それらの発現抑制に関わることが推定された。その候補物質として,自然薯に含まれる植物ステロールのジオスゲニンが少なくともCOX-2の発現抑制効果を有することを見出した。そこで,ジオスゲニンのCOX-2発現抑制の作用機序を解析したところ,ジオスゲニンはグルココルチコイド受容体を介して,COX-2転写因子のNF-κBによる発現誘導を押さえていることが推定された。さらに,このような高機能性を有する自然薯低温粉末を用いた高齢者のための嚥下補助食あるいは嚥下調整食への応用を考えた。そこで,自然薯粉末のテクスチャー解析あるいはレオロジー解析を行った結果,テクスチャー解析からは,「厚生労働省の「えん下困難者用食品の許可基準」の基準II以上の適応性が認められ,レオロジー解析からも嚥下困難者用の食材としての可能性が見出された。
2: おおむね順調に進展している
本年度予定していた自然薯抽出物からの機能性成分の単離同定を行うにあたり,そのためのスクリーニング系を検討しており,現在は,定量PCR法によるスクリーニングを実施している。さらに,マルチプロモーターアッセイ系を用いたスクリーニングを目指しているが,それについては,現在構築中である。機能性成分の同定については,複数成分のうち,一つを候補物質として同定し,その作用機序の解析を行うことができた。さらに,そのin vitro 評価については,癌細胞を用いた解析を行っているところであり,一定の効果が認められた。さらに,次年度以降に予定しているin vivo評価のための難治性皮膚炎モデルマウスを作製し,予備実験をおこなっている。さらに,予定では次年度に行うこととしていた自然薯低温乾燥粉末の嚥下補助食あるいは嚥下調整食のためのテクスチャー解析ならびにレオロジー解析を進めることができた。さらに,レシピ開発のための試作にも取り組むことができた。以上のように,研究目的1)の食品機能性成分の単離同定については,実施計画に対する達成度は不十分であったが,研究目的2)の自然薯低温乾燥粉末を用いた高齢者食への応用についての研究は先に進めることができたので,相対的には,研究計画をほぼ達成できたと考える。
平成 28年度は,マルチプロモーターアッセイ系を確立し,さらに別の機能性成分の単離同定をすすめ,in vitroでの機能性評価を行う。また,本年度,機能性成分の一つとして同定したジオスゲニンや新規成分を含め,皮膚癌や皮膚炎あるいは大腸炎モデルなどのin vivo系においても抗炎症作用を中心に機能性を評価する。自然薯を用いた高齢者用嚥下補調整食のレシピ開発を進め,官能試験や嗜好調査に加え,テクスチャー解析をおこなう予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 7件) 備考 (1件)
山陽技術雑誌
巻: 63 ページ: 印刷中
岡山県立大学保健福祉学部紀要
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doi.org/10.15009/00001296
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アサヒグループ学術振興財団 研究紀要
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http://www.fhw.oka-pu.ac.jp/eiyo/staff/index.html