本研究では、以下の3つのことを研究課題として取り組んだ.検討Ⅰ:固形物摂食時の舌骨上筋群表面筋電位パタン分析,検討Ⅱ:舌口蓋接触点及び舌口蓋接触圧変化時の舌骨上筋群表面筋電位パタン分析,検討Ⅲ:舌口蓋接触点と舌口蓋接触圧を舌骨上筋群パタンから推定することである. 2015年度は,水・寒天・カプセル嚥下時の舌骨上筋群筋電位パタンについて多チャンネル舌骨上筋群表面筋電装置を用いて健常若年者に実施し,それぞれ筋電位パタンが異なることを確認した.ただし,液体の粘性による差はなく,舌全体の運動に由来することが推測された.2016年度は,1口量,粘度,意識下の摂取条件を変化させて筋電位計測を実施した.その結果,1口量の違いと意識化をした際に舌骨上筋群のパタンが変化した.また,健常若年者,健常高齢者,摂食嚥下障害者の3群で,舌骨上筋群のパタンから舌運動の識別率を確認した.嚥下障害者群において最も識別率が低かったものの,舌骨上筋群のパタンから舌の位置を推定することは可能であることが理解できた.その成果を受けて,2017年度は舌運動によって生じる舌骨上筋群の筋活動を,位置,運動範囲,運動強度を舌骨上筋群筋電パタンで捉えて可視化する手法を検討した.これらはわが国で初めての取り組みであり,その準備に1年を要した. 2018年度は,2017年度に検討した可視化方法を用いて,その整合性や再現性を検討した.その結果,舌運動範囲や運動強度の単運動であれば,舌骨上筋群筋電パタンから推定可能であることを確認した.ただし,食物物性がわずかに異なる食物を摂食した状況で推定可能か否かの検討しなければ,最終目標である舌骨上筋群表面筋電位パタンから至的食物の選択に至らないことが理解できたため,食物物性を計測し,固さ・凝集性・付着性の数値結果と筋電パタンの検討を追加し実施した.
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