研究実績の概要 |
本研究は, ヒトの咀嚼課程で形成される食片の凝集体である食塊に着目し, その構成要素である咀嚼食片の粒度特性を再現する数理モデルを用いて, 個人の咀嚼・嚥下過程の定量化の基礎となる知見を探る研究である。過去の食品粒度特性から得られた知見や食品物性, 被験者属性の影響を踏まえて数理モデルを構成することで, 従来の生理学的測定, 機器測定等に比べ低コスト, 簡便に個人の摂食能力を評価できる普遍的な指標の提案を最終的には目指している。 平成29年度は, 咀嚼および嚥下能力における重要な要素であるヒトにより咀嚼された食片が口腔内で舌や口腔運動によって唾液等とともに凝集された食片の塊である食塊について以下のような研究を行った。 1) 前年度までに検討を行ったイーデンモデルおよび数値シミュレーションによって, 特に粒度分布が自然界でよく見られる正規分布にしたがう食片について食塊形成モデルを確立した。 2) 1) の食塊形成モデルで作られた擬似的食塊クラスターに関して, クラスター内における食片の占める割合を与える充填率を計算した。この結果は昨年度受理され, 今年度発行された論文で触れられている。 3) 1) のモデルについて, その数理的な性質を検討し, 過去の空間充填モデル等との比較を行った。その結果, 我々が検討しているモデルは粒度が一定のモデルに比べて, 充填率が大きくなることが確かめられた。また, 充填率に対する界面効果の影響を粒子数無限大の極限をとることで評価したところ, 界面のゆらぎが充填率の大きく影響を与えることが示された。この結果については, 今年度受理され, 発行された。
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