「粘り」は日本の食文化を象徴するテクスチャーの一つであり、食べ物の「粘り」を表す日本語は他言語に比べて多彩である。本研究では、「粘り」について、具体的な表現(用語)を整理、分類、体系化して、「粘り」の要素を整理することを目的とした。 前年度に首都圏の18歳以上の日本人男女を対象に実施した「粘り」に関連する表現の調査の結果、「粘り」を表現する用語の中には若年層に認知度の低いものが多くみられた。そこで今年度は、食育への展開にむけて、中学生の「粘り」の語彙を確認するために、首都圏および京阪神地区で4校の協力を得て質問紙調査を実施した。あわせて、両地区で、18歳以上の男女1600人にweb上での調査も実施した。いずれの調査でも、用語を列挙し、各用語について「食べ物の表現だと思うか(食表現としての認知状況)」「食べ物に粘りがあることを表現する言葉だと思うか(粘り表現としての認知状況)」を回答してもらった。 結果を解析したところ、昨年同様、18歳以上の日本人男女のweb調査では、「粘り」の表現の中には、年齢層が高いほど認知度が高い傾向の語が多いことが確認された。一方、中学生の調査結果で、18歳以上の対象者と比較した際に顕著に粘り表現としての認知度が低いのは、「ぺたっとした」「ぺとっとした」等の強く貼り付く感じの表現であった。これらの結果の背景には、食生活の変化、食経験の違い、語感の受容が関係していると推測された。 以上のデータと、先行研究(早川ら、日本食品科学工学会誌、53、327、2006)の用語のデータを用いて、「粘り」の表現用語の分類表、および用語の認知状況を調査時期、年齢、性、地域で比較した資料をまとめ、そこから食生活などの背景を考える食育教材の資料を作成した。
|