研究実績の概要 |
Fc gamma受容体(IIb型Fc受容体)は、主に白血球の細胞表面に発現し、抗原-抗体複合体と結合して免疫抑制的に機能することが知られている。一方で胎盤や肝臓の毛細血管にも発現しており、近年、IgG輸送や免疫応答に関与することが報告されているが、その詳細は明らかにはなっていない。我々は、食餌誘導性肝障害の発症段階においても、IIb型Fc受容体が免疫応答を緩徐にすることで肝障害の抑制に寄与するのではないかと考え、肝障害発症過程におけるIIb型Fc受容体の発現応答とその役割の解明を目的とした。 食餌誘導性肝障害モデルとして、マウスに非アルコール性脂肪肝炎(NASH)誘導食を与え、NASH鑑別診断基準である大滴性脂肪沈着、風船様変性、炎症性細胞集積、線維化のすべての病理所見の再現を確認した。NASH発症に伴って肝臓のIIb型Fc受容体の遺伝子発現は有意に増加するものの、NASH亢進域では発現が減少することが明らかとなった。新規機能解明のため、近年報告のある新規リガンド候補分子について、マウス不死化肝類洞内皮細胞株を用いたバイオイメージング解析を行った。 一方、ヒトNAFLD, NASH患者についても解析した。IIb型Fc受容体発現は、NASH発症初期の線維化ステージ1で最も発現が高く、その後減少する傾向が認められた。さらにNASH亢進や線維化の指標であるコラーゲンVI、ヒアルロン酸の血中濃度と負の相関を示すことが明らかとなった。 近年、慢性肝炎の亢進と改善の分岐点で「線維化か、再生か」を規定するのは類洞内皮細胞の形質変化であるとする報告がある。本研究の成果はこの仮説を支持する所見のひとつとして大変重要な意義をもつ。
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