研究課題/領域番号 |
15K00811
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
藤原 葉子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50293105)
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研究分担者 |
石川 朋子 お茶の水女子大学, プロジェクト教育研究院, 特任准教授 (70212850)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ビタミンE / 肥満 / 耐糖能 / インスリン / 膵β細胞 |
研究実績の概要 |
抗酸化ビタミンとして知られているビタミンEは、その主な生理作用を持つα-トコフェロール(α-Toc)を含む8つの同族体からなる。我々が食物として摂取する天然物にはα-Toc以外のこれら同族体も多く含まれているが、生体内で最も利用効率が高いのはα-Tocである。トコトリエノール(T3)には抗がん作用、コレステロール低下作用などのα-Tocにはない生理作用があることも知られているが、生体内での利用効率がα-Tocよりも低いため、注目されながらも生体での効果は明らかではなかった。我々はこれまでに、自然界に比較的多く存在するγ-T3を高脂肪食誘導性肥満マウスに投与すると、血中インスリン分泌量の増加を介して糖負荷後の血糖値の上昇を抑えることを見いだした。日本人は遺伝的にインスリン分泌能が低いため、肥満に起因する高血糖に対する抵抗性が弱く、膵臓が疲弊してインスリンが分泌できなくなるII型糖尿病を発症しやすい。これを発症前段階で未然に防ぐために、最近では予防や治療ターゲットとして、膵臓のインスリン分泌促進に注目が集まっている。そこで本研究は、γ-T3の膵臓におけるインスリン分泌能増加とそのメカニズムを探ることを目的とした。 T3摂取マウスでは、高脂肪食コントロールやα-Toc添加食群と比較して、膵臓のインスリンを分泌する膵島の数、特に大型の膵島だけなく、小型の膵島数も顕著に増加することを確認した。細胞増殖マーカーであるBrdUあるいは、Ki67とインスリンの蛍光免疫染色を行なったところ、T3摂取群の膵臓は他と比較してKi67陽性の膵β細胞が多い傾向が見られた。マウス組織中のビタミンE同族体含量を測定したところ、摂取したT3は肝臓や血中から速やかに消失するものの、皮膚や脂肪組織には多く蓄積していた。T3の膵臓への作用として、膵臓へ直接働く作用と脂肪組織から分泌される新規ホルモンであるβトロフィンによる間接的な作用との両面から検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物実験において、餌に添加する多量かつ高純度のγ-T3は高額で入手が難しいことから、γT3を53.3%と最も多く含むT3混合物を使用した。想定範囲内ではあったが、高純度品を使用した時よりも耐糖能改善効果が弱かったため、現在、再度純度の高いもので再実験を行なっている。しかし本年度中に膵臓β細胞の増殖を評価する免疫染色の条件設定ができたこと、膵臓のmRNAの分解を防ぎRT-PCRに供せるだけの純度の高いmRNA抽出方法が確立できたことより、現在飼育中の動物実験の結果から、膵臓の増殖に関する成果は十分得ることができる。 膵臓β細胞株であるMIN6をアメリカより購入したが、共同利用の培養室環境のため、昨年は培養室内のほとんどの細胞がコンタミしてしまい、実験が中断してしまった。国内の研究者からヒト由来細胞1.1B4細胞とマウス由来MIN6の譲渡を受けることができたため、まず実験に使えるだけの細胞ストックの確保から行なっている状況である。1.1B4細胞では、ビタミンEの直接添加による細胞増殖作用が認められており、培養も順調に進んでいるため今後は結果が得られると思う。膵臓β細胞の増殖に関わる因子として2013年にCellに報告されたβトロフィンを想定し、飼育マウスの脂肪組織や血中のタンパク質発現を検討してきたが、βトロフィンをタンパク質レベルで検出することはできなかった。3T3脂肪細胞にT3を添加したとき、βトロフィンのmRNA発現量が添加濃度に依存して増加することは確認したが、βトロフィンの効果については、その後否定的な報告も増えているため、これ以外の他の可能性を探る必要がある。いくつか困難はあったが、その中でも重要な成果は得られた。
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今後の研究の推進方策 |
まず高純度のγ-T3を使った再実験により、膵臓β細胞の増殖について評価する。増殖マーカーとして、BrdUやKi67による免疫染色法を用いるとともに、膵臓組織から高純度のmRNAを抽出して、β細胞の各種分化マーカーのmRNA発現を検討し、膵β細胞の増殖が、細胞分化促進なのか、自己増殖なのかについて結論をだす。 培養細胞を使った実験は、準備が整ってきたため、増殖作用がビタミンEによる直接的な作用なのかどうか、培養系に添加して検討する。 前述のとおり、βトロフィンに限らず、何らかの因子を介した影響である可能性を探る必要がでてきた。動物実験でのインクレチン測定には問題が多いため、当面はT3が多量に蓄積する脂肪組織を中心に、膵臓との相互作用を検討することにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は共通培養室の大規模なコンタミが発生したため、培養実験が大幅に遅れた。初年度に使用予定だった培養関連の予算は、実験が進まなかったため次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度計上していた培養用の培地や血清などは、次年度に購入して実験を進める予定である。その他についてはほぼ計画通り進むものと予想している。
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