研究課題/領域番号 |
15K00825
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研究機関 | 新潟県立大学 |
研究代表者 |
曽根 英行 新潟県立大学, 人間生活学部, 教授 (90398511)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ビオチン / glucokinase / 視床下部 / 膵島細胞 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、健常マウス(C57BL/6jマウス)による検討で、ビオチンが視床下部及び膵島細胞でのglucokinase遺伝子発現量の増加を介した摂食抑制と膵島細胞増殖を示すことを明らかにした。そこで、平成28年度は、活発な摂食行動と代償性膵β細胞増殖の亢進を特徴とする高脂肪食負荷C57BL/6jマウス(食事誘導性2型糖尿病マウス)を使用して、2型糖尿病進展過程におけるビオチンの視床下部及び膵島細胞でのglucokinase遺伝子の発現調節と摂食抑制及び膵島細胞増殖作用を検討した。その結果、高脂肪食負荷条件下では、ビオチンは摂食抑制作用と顕著な体重増加抑制作用を有することを明らかにした。視床下部におけるglucokinase遺伝子発現量はビオチンによって有意に増加しており、ビオチンによるグルコース応答性ニューロンを介した摂食抑制が示唆された。加えて、ビオチンは、高脂肪食負荷による耐糖能の悪化を改善し、高血糖状態への進展を抑制することを明らかにした。視床下部同様、膵島細胞においてもビオチンによるglucokinase遺伝子発現量の増加が観察され、IRS-2遺伝子についても増加傾向が認められたことから、ビオチンによる膵島細胞増殖の亢進が示唆された。以上の結果から、ビオチンは視床下部及び膵島細胞における共通分子であるglucokinase遺伝子の発現を上昇して摂食行動の抑制と膵島機能を維持することで2型糖尿病への進展を抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまで健常マウスで明らかにしてきたビオチンによる摂食抑制作用と膵島機能維持作用を2型糖尿病モデル動物である高脂肪食負荷マウスで検討した。その結果、ビオチンが視床下部及び膵島細胞に作用して2型糖尿病への進展を抑制することを明らかにした。加えて、これらビオチンによる効果が視床下部及び膵島細胞における共通分子(glucokinase)を介して惹起されており、ビオチンによる新たな視点からの抗糖尿病作用を示した。本年度は、2型糖尿病モデルマウスを用いて視床下部及び膵島細胞を標的としたビオチンによる抗糖尿病作用の検証とglucokinaseを介した作用機序を確認できたことから、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に得られた高脂肪食負荷マウスにおけるビオチンの抗糖尿病進展効果を再検討するとともに、視床下部においては、glucokinase遺伝子の下流に位置する摂食関連遺伝子の遺伝子発現に対するビオチンの効果を検証する。また、膵島細胞では、膵β細胞と膵α細胞の細胞増殖能を免疫染色法で確認した後、膵島細胞増殖関連遺伝子(細胞周期関連遺伝子)と膵β及びα細胞発生・分化調節転写因子(共通分子:PDX-1、α細胞:Arx, MafB、β細胞:Pax4, Nkx6.1)に対するビオチンの効果を検討する。加えて、本年度の研究結果においてビオチンによる抑制効果が摂食量に対し体重増加で顕著に認められたことから、摂食抑制以外での体重抑制機序が推察される。これまでのビオチンの薬理作用に関する報告を鑑み、ビオチンの交感神経系活性化、特に甲状腺ホルモン分泌に対するビオチンの効果が想定される。本年度はこれらの点についても併せて検討することを予定する。
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