研究課題/領域番号 |
15K00828
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
海野 けい子 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (10106437)
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研究分担者 |
木村 洋子 静岡大学, 農学部, 教授 (80291152)
住吉 晃 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (80612530)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳老化 / ストレス / カテキン / テアニン / 認知症 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
高齢社会となったわが国における認知症対策として「脳の老化予防」が重要であるが、「ストレスの蓄積」や「糖尿病」は脳の老化を促進することが疫学的に明らかになっている。本研究では、われわれがこれまでにストレスならびに糖尿病に対する予防効果を明らかにしてきた緑茶成分のテアニンおよびカテキンに着目し、脳の老化予防における作用機構解明ならびに食品成分の脳に対する機能性解明をめざし、平成28年度に下記の成果を得た。 1. 緑茶成分のストレス緩和作用について、緑茶成分間での相互作用を明らかにした。これまでにテアニンの抗ストレス作用に対しカフェインが拮抗することが報告されているが、ガレート型カテキンはカフェイン以上にテアニンの作用を抑制することを見出した。一方、非ガレート型カテキンはガレート型カテキンと拮抗することにより、間接的にテアニンの作用を助けることを見出した。更にテアニンに次いで緑茶中に多いアミノ酸であるアルギニンが、テアニンと同等の抗ストレス作用を示すことも見出した。これらの成果により、緑茶の成分組成を比較することによりストレス緩和作用を推定できることを明らかにした(Phytomedicine, 23, 1365-1374, 2016)。 2. 緑茶カテキンによる脳の老化予防作用を明らかにするため、カテキン類の血液脳関門(BBB)透過性ならびに培養神経細胞に対する分化促進作用について詳細に検討した。その結果、緑茶中に含まれるカテキンの中でエピガロカテキンガレート(EGCG)は、BBBを透過して脳内に取り込まれると推定されるごくわずかの量で神経細胞の分化を促進することを明らかにした。これにより、加齢に伴う脳機能低下が緑茶の摂取により抑制される機構の一端が明らかとなった(Biochem Biophys Rep, 9, 180-186, 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度の研究計画として下記をの項目を予定し、以下のような成果が得られたことから、本研究課題は概ね順調に進展している。 1. テアニンの抗ストレス作用について、他の緑茶成分と一緒にテアニンを摂取した場合に十分なストレス軽減効果が得られるためにはどのような組成が適しているのか、脳内の作用機構を含め検討した。その結果をまとめ論文とした(Phytomedicine, 23, 1365-1374, 2016)。また中高齢を対象として、低カフェイン緑茶のストレス軽減効果を検討した。その結果をまとめ、現在論文を作成中である。2. ストレスを負荷したマウスについて、脳内での遺伝子発現の変化、ならびにテアニンの作用機構についての解明をめざし、遺伝子発現の変化について解析を行った。その結果、重要な遺伝子発現の変化が見出されたことから、この遺伝子を鍵として研究を伸展することとした。3. 高脂肪食ならびにカテキン摂取により変化する脳内遺伝子に関する研究については、現在論文を作成中である。 4. 雌マウスに適したストレス負荷実験系を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
脳老化を促進する要因として「ストレスの蓄積」ならびに「糖尿病の関与」に焦点を当て、脳老化促進の機構解明ならびに食品成分の機能性解明をめざし、今後下記の項目を実施する。 1. 「高脂肪食摂取」が脳の老化を促進することをこれまでに明らかにしていることから、これに「ストレスの負荷」が加わった場合に、アルツハイマー病との関連において重要なアミロイドβの脳内での蓄積が増加するかどうか検討する。 2. 緑茶カテキンを摂取することにより脳機能の低下が抑制されることをこれまでに明らかとしてきたが、脳機能低下抑制ならびに寿命延長効果における摂取量と効果との関連について実験動物で検討する。また、抹茶として摂取した場合にストレス緩和作用が期待できるかどうか、実験動物ならびにヒトで検討する。 3. 緑茶カテキンは経口的に摂取された場合、その多くが腸内細菌により分解され更に代謝を受けた形で体内を循環している。しかしこれまで代謝されたカテキン類の作用については、ほとんど検討されていない。そこでカテキン代謝物の血液脳関門透過性ならびに培養神経細胞に対する作用を検討し、緑茶カテキンの生体内での作用機構を更に明らかにする。 4. テアニンの作用機構について、28年度に得られた成果を基に解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者(東北大学・住吉晃)が海外留学することになったため、予定していた分担金が使用されなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究分担者(東北大学・住吉晃)との共同研究の成果は概ね得られている。そこで29年度の研究分担者(静岡大学・木村洋子)への分担金を20万円から30万円に変更する。残りの198,848円は海野が消耗品費として使用する。
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