研究実績の概要 |
トリプトファン代謝産物キヌレン酸が脳内で増加すると,神経伝達物質の放出抑制を介して高次脳機能を低下させる.本研究では,キヌレン酸産生機構がアミノ酸代謝と関連することに着目し,アミノ酸代謝制御によってキヌレン酸を介した高次脳機能を調節することを目的としている.平成29年度は,平成28年度に続き,キヌレン酸産生異常を招く因子を明らかにすることを目的として,疾病モデル動物におけるキヌレン酸代謝動態の解析に取組んだ. 肝障害モデル動物において肝臓のトリプトファン代謝が抑制されることを研究代表者は見出しており,平成28年度には急性肝炎によって末梢のトリプトファン代謝および脳内キヌレン酸産生が亢進することを明らかにした.平成29年度は,軽度の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデル動物を用いて,末梢のトリプトファン代謝変動が脳キヌレン酸濃度におよぼす影響とその作用機序について検討した.ラットに高フルクトース食を与え,軽度のNASHを発症させると,トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ,キヌレニン3-モノオキシゲナーゼンなど肝臓におけるトリプトファン代謝経路の酵素活性の変動が認められ,肝臓におけるトリプトファン異化代謝が抑制された.これに伴い血中キヌレニンの低下が認められたが,脳内のキヌレニンおよびキヌレン酸濃度には影響は認められなかった.以上の結果は,脳内キヌレン酸産生は末梢のトリプトファン異化代謝の抑制による影響を受けないことを示している.肝障害の種類によって,末梢のトリプトファン代謝が受ける影響が異なり,それに伴い脳内キヌレン酸産生への影響も異なる可能性が示された.
|