本研究では,難消化性食品因子が普遍的に大腸アルカリホスファターゼ(ALP)とβ-グルコシダーゼ活性誘導作用を有するか否かを明らかにし,その生理的意義を検討することを目的とした。
最終年度に実施した研究では,数種のオリゴ糖を用いて,高脂肪食摂取ラットの大腸ALP活性とALP遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。その結果,発酵性難消化性オリゴ糖であるフルクトオリゴ糖,ガラクトオリゴ糖,ラフィノースおよびラクチュロースが共通して,大腸ALP活性とALP遺伝子(IAP-I)発現を増加させることを明らかにした。一方で,一部消化性オリゴ糖であるイソマルトオリゴ糖は,同様の影響を示さなかった。また,大腸ALP活性と腸管バリア機能の指標である糞中Mucin,腸内発酵産物である酪酸,および糞中Bifidobacteriumとの間には正の相関が認められた。さらに,ALPとメタボリックシンドローム予防との関係性が指摘されていることから,腸管の脂質代謝関連遺伝子について検討したところ,発酵性難消化性オリゴ糖は,腸管の脂質分解系遺伝子発現を誘導する可能性を示した。
近年,小腸ALP活性は腸管内での抗炎症作用が指摘され,栄養条件による変動も報告されている。一方,大腸ALP活性や遺伝子発現についてはほとんど検討されていない。本研究では,腸内環境改善作用のある水溶性食物繊維やオリゴ糖等の発酵性難消化性糖質が共通して,高脂肪食摂取ラットの大腸ALP活性を特異的に増加させ,この増加にIAP-I遺伝子発現の誘導が関与していることを明らかにした。また,大腸ALP活性は,腸内環境改善に関わる腸管の種々の因子と正の相関関係にあることを示した。一方で,β-グルコシダーゼ活性については共通した影響は認められなかった。以上より,発酵性の難消化性食品因子による大腸ALP活性の増加は,大腸内環境の保全に関与する可能性が推察された。
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