研究課題/領域番号 |
15K00842
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
横山 嘉子 聖徳大学, 人間栄養学部, 准教授 (40202395)
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研究分担者 |
加納 和孝 聖徳大学, 人間栄養学部, 教授 (70111507) [辞退]
神野 茂樹 聖徳大学, 人間栄養学部, 教授 (10251224)
田部井 功 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (50266649)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エライジン酸 / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
申請者は平成27年度までの実験で、エライジン酸が細胞膜に存在するTLR4を介してYMB細胞でIL-6、TNF-αの発現・分泌を促し、細胞内情報伝達系を駆動していることを報告した。この分野ではTNF-αあるいはJNKによるIRSのセリンリン酸化の亢進が報告されている。平成28年度では、申請者はTLR4の阻害剤、TAK-242がエライジン酸によるIRSのセリンリン酸化を阻害することを初めて明らかにした。このことはエライジン酸がTLR4シグナル伝達系を介してインスリン抵抗性を惹起していることを示唆するものである。 さらに、近年TLR4アゴニストであるLPS投与で、野生型マウスの単離筋でセラミドが増加し、糖取り込みが減少することが報告された。セラミドは、IRS-1チロシンリン酸化とPI3-キナーゼ活性を低下させ、GLUT4を介するインスリンのグルコースの細胞内取り込み作用を抑制すること、さらにセラミドの増加が肥満、糖尿病、動脈硬化と密接に関連していることが報告されている。 申請者はこれらのことを踏まえて、U937細胞、TLR4導入HEK-293細胞その他の細胞を用いてエライジン酸添加によるセラミド産生の変動についてセラミド合成酵素3と4の動向を解析することにより明らかにすることを試みた。現在までのところ、セラミド合成酵素4についてほぼ解析が終了し、エライジン酸投与によりほとんどの細胞でセラミド合成酵素4発現量が増加することが明らかとなった。しかしながら細胞中のセラミド量の測定が現在までには結果が出ていないので、実際に細胞中でのセラミドの量的変化は不明である。 揚げ物料理におけるトランス脂肪酸の生成についての実験では、200℃を超えた時点でわずかであるがエライジン酸の生成が認められた。現在他のトランス脂肪酸について分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに研究はおおむね順調であるが、いくつか問題が生じていた。一つは前年度から生じたYMB細胞の性質の変化、エライジン酸によるアディポネクチン発現抑制あるいはTNF-α発現の低下が回復しないことである。これに関してはヒト単球由来白血病細胞U937とTLR4導入HEK-293細胞を導入して実験を継続している。これらの細胞を用いた実験を行い、エライジン酸のTLR4を介したセラミド産生増加に関連する情報伝達系の解析を進めている。28年度の実績報告にも記したが、インスリン抵抗性を生じる要因としてTLR4シグナル伝達系を介したセラミドの増加が、いくつかの報告によると直接的にはIRSのチロシンリン酸化を阻害するとの報告、肥満、糖尿病、動脈硬化とも関連していると報告があるが、トランス脂肪酸によりセラミド合成量の変動についての報告はなく、これを明らかにすることは非常に重要であると考えられる。現在セラミド合成酵素のPCRプライマーの設計、LC/MSによるセラミドの定量法などについて検討を行っている。 これまでの研究でエライジン酸によるアディポネクチン、TNF-αの変動がTLR4のリガンドとされるLPSと比べてやや遅いことが観察されていた。28年度の実験でも同様のことが観察された。この結果はTLR4とエライジン酸の結合にまだ知られていない因子が介在している可能性を示唆していると思われる。そこでU937、LR4導入HEK-293その他の細胞を用いてこの因子の解析を試みている。実験方法としてはクロスリンカーを持いたタンパク質の抽出と2次元電気泳動を予定し、試薬などの準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らのこれまでの研究によってエライジン酸はTLR4をその受容体として細胞に炎症性変化を惹起し、TNF-α、IL-6、ICAM-1などの様々なサイトカイン、接着たんぱく質などの発現の異常、あるいはマクロファージの食作用の亢進などを引きおこすことが明らかになった。28年度の研究ではエライジン酸がセラミドの産生を亢進することが明らかになった。セラミドは細胞内でIRSのチロシンリン酸化を阻害することが知られており、インスリン抵抗性の誘導に密接に関連していると考えられる。今後はセラミド合成酵素、細胞内のセラミド量などを指標にRT-PCR、脂肪酸結合タンパク質とTLR4のクロスリンク、二次元電気泳動、LC/MSなどの手法を用いてエライジン酸によるTLR4を介したセラミド合成系に果たす細胞内情報伝達系の役割について詳細に解析し、その機構を明らかにすることにより、臨床栄養学的にトランス脂肪酸によるインスリン抵抗性に対する予防措置を具体化する。また抗炎症作用を持つことが明らかになっている、DHA、EPAなどについて、同酵素の発現、セラミド量の変動などを指標として解析する。また最近美容との関連からセラミドを増加させる食品などが話題になっているが、その可否についても科学的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にYMB細胞を用いてエライジン酸によるインスリン情報伝達系への影響を解析する予定であったが、YMB細胞の性質に変化が起こり反応性の低下が生じてきたため計画を変更し、ヒト単球由来白血病細胞U937とTLR4導入HEK-293細胞で実験を継続した。HEK-293細胞細胞の導入にあたり、細胞の増殖と凍結保存を優先したために、蛍光抗体を用いた実験が延期されたために、抗体を購入することが少なかったために未使用額がやや増加した。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度にはLC/MSによるセラミド分析、脂肪酸結合タンパク質とTLR4のクロスリンクと抗体による精製、2次元電気泳動などを行う予定であり、未使用額はその経費にあてることとしたい。
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