研究課題
特定の脂肪酸が心血管疾患発症進展に関与している事は報告されているが、血中脂肪酸バランスの異常が、心筋内脂肪酸代謝に与える影響については不明である。本研究の目的は、心疾患患者における血中脂肪酸バランスと心筋脂肪酸代謝との関連を、新たな非侵襲的心筋内中性脂肪(TG)量測定法である1H-magnetic resonance spectroscopy (MRS)法を用いて検討、さらには、食事プログラム、脂肪酸摂取による介入の心筋脂内TG量への影響を基礎的・臨床的に検証し、心筋脂肪酸代謝に対する有効な介入法を確立、心疾患に対する新たな、かつ効果的な食事プログラム、治療法の開発に繋げる事である。本年度も引き続きCoronary Intendive Care Unit (CICU)に入室した種々の心血管疾患患者のデータベース作成、血液検体等の保存、解析を前向き研究として進めてきた。その中で、心筋内ミトコンドリア代謝に関わるCoenzymeQ10 がCICU入院患者の院内死亡に関わることを報告(Heart Vessels. 2016 印刷中)している。また血中ω6脂肪酸低値が、心不全患者における長期予後不良と関連することを明らかにし、学会発表(日本循環器学会、欧州心臓病学会、米国心臓病学会等)、論文作成を行なっている。またMRS法による測定により肥大型心筋症患者では、高血圧性心臓病患者に比べ、心筋内中性脂肪量が低値であることを明らかにし論文報告(Heart Vessels. 32:166-174, 2017)している。動物実験としては、虚血心筋モデルマウスを測定し心筋内中性脂肪量並びに詳細な脂肪酸バランス測定を行う系を確立中である。
2: おおむね順調に進展している
CICUでのデータベース作成、血液検体保存、脂肪酸代謝に関わる長鎖脂肪酸、アシルカルニチン、コエンザイムQ10等の各種測定は順調である。疾患群におけるMRSによる心筋内中性脂肪測定がやや遅れているが、測定に関わる大学院生、スタッフが増加したことにより、今後さらに進捗していくと考えている。動物実験に関しては、極長鎖脂肪酸蓄積モデルマウスの繁殖が困難な状況であるが、その他の疾患モデルマウスとして虚血心筋モデルマウス、アンギオテンシン負荷動脈瘤モデルマウスの作成系を確立しており、今後脂肪酸投与の研究を行っていく予定であり、概ね順調と言える。
臨床研究に関しては、当初の予定通りCICU入院患者の脂肪酸、微量栄養素測定、MRS測定を行っていく。初年度に学会発表を行った、心不全患者の予後におけるカルニチンのアシル化が影響していることを踏まえ、論文作成並びにカルニチン投与によるCICU患者の心臓リハビリテーション効率化の検討を行う予定である。加えて、当研究で収集したコホートの成果として、静脈血栓症患者でω3脂肪酸が低値であったことを報告しており(J Atheroscler Thromb. 2017年印刷中)、対象患者を拡張し静脈血栓症ハイリスク患者である膝関節症手術患者を対象に、脂肪酸測定並びにω3脂肪酸投与による効果の検討を行っていく予定である。静脈血栓症は心筋内ミトコンドリア代謝と直接関連する疾患ではないが、心血管疾患に対する食事プログラムの確立という当研究の最終的な目的に合致している内容と考える。動物実験に関しては、極長鎖脂肪酸蓄積モデルマウスの繁殖が困難な状況であるが、その他の疾患モデルマウスとして虚血心筋モデルマウス、アンギオテンシン負荷動脈瘤モデルマウスの作成系を確立しており、今後脂肪酸等の投与の研究を行っていく予定である
平成27年度に受領した研究予算の繰越金があり当初からあり、引き継いで繰越金が発生している状況である。本年度は実験機器の購入、国内、海外での研究発表を複数回行い適正に使用がなされている。
物品費、人件費に関しては、主にデータベース作成補助者に対する人件費に使用する予定である。またその他の項目として、静脈血栓症患者におけるω3脂肪酸の影響に関する研究を進めており、対象患者の血中脂肪酸測定費用、下肢静脈エコー測定に関する費用に使用することを予定している。旅費に関しては本年度は米国心臓病学会、欧州心臓病学会参加予定であり、その渡航費用に当てる予定である。また研究結果も論文化も順調であり掲載費用等に使用していく予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 6件)
Heart Vessels
巻: 32 ページ: 166-174
10.1007/s00380-016-0844-8
J Atheroscler Thromb
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.5551/jat.38315
10.5551/jat.37424
巻: 31 ページ: 694-701
10.1007/s00380-015-0674-0
BMC Cardiovasc Disord
巻: 16 ページ: 143
10.1186/s12872-016-0299-y
Cardiovasc Diabetol
巻: 15 ページ: 145
10.1186/s12933-016-0459-5
Circa J
巻: 80 ページ: 2473-2481
10.1253/circj.CJ-16-0837
10.1007/s00380-016-0923-x