研究課題/領域番号 |
15K00856
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研究機関 | 至学館大学 |
研究代表者 |
今枝 奈保美 至学館大学, 健康科学部, 教授 (80387662)
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研究分担者 |
野崎 浩成 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (80275148)
中村 美詠子 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (30236012)
中畑 典子 島根大学, 医学部, 特任助教 (40299889)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 食事調査法 / 料理データベース / コーパス研究 / 栄養疫学 |
研究実績の概要 |
本研究は,栄養疫学の食事調査法を改善する目的で,実施済の食事記録調査でコード化された料理・食品の電子データをコーパスとして活用し,食事調査の対象者が食事を思い出すときの支援ツールを作成する計画である。食事評価は予防医学の基礎であるが,従来の調査は食べた物をすべて計量し,筆記する必要があり,対象者に大きな負担がかかる。食事調査を簡便化する試みは,経済的貧困や教育水準の差を原因とする「健康格差」を緩和することに貢献できると考えている。なぜならば,面倒な食事記録作業を,スマートフォン等の音声認識ソフトに代えることができれば,書字能力に問題がある人や健康意識の低い人でも、食事アセスメントを受けられる,自分の食生活を振り返る機会が増えるためである。さらに,この研究で開発する「食物シソーラス」を活用することで,料理の具や調理方法を詳しく知らない人(食事調査で申告できない人)からも,より正確な食事摂取量が推定できるようになると考えられる。 また,食物シソーラスの開発過程を文書化した成果物は、疾病と食物の関連,料理の組み合わせ,調理・食品分類学の解説資料として利用価値がある。 本研究課題は,当初は,食事内容を音声入力するプロセスも考えていたが,最近の携帯アプリやPCの基盤ツールの発展はめざましくて,かなり精巧な音声入力を無料で提供するようになった。従って,本研究は音声認識を考える研究ではなくて,音声認識を“ユーザー”として使いこなす立場に転換した。 この研究では,料理ごとに食品の出現頻度など数値指標を算出し,料理・食品・栄養素と疾病の疫学的関係を整理し,食物のシソーラスの開発を目指す。これらによって,食事調査の精度を保ちながらも,簡便な食事調査システムが開発できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに,言語情報処理学と疫学の両面から理論設計・課題の構造化を中心に取り組んだ。まず,一般の人が申告できる料理・食品を,管理栄養士等の専門家がどのような観点で日本食品標準成分表1800食品にカテゴリー化しているか,簡便化が許される再カテゴリーとしては何が根拠になるかを検討した。研究分担者(中村美詠子)は,45世帯分の食事記録調査原票を観察し,対象者が実際に書いた料理・食品名と,栄養士が整理した日本食品標準成分表の食品の差異を整理し,その過程で,食品の表記が一致しない状況(送り仮名や漢字の違い,長音符(ー)や「ウ」の有無,食品名に商品名が含まれる例,食品名の俗名・略称)などの原因を報告した。また今枝は,表記揺れに関しては404人の地域住民の料理名・食品名が平仮名で表記されたデータ4,799日分を,自動的に漢字にするプログラミングを試みた。その結果,情報処理領域の自然言語辞書(JUMAN,MeCab)でも集約できない例として,「酢(す)」,魚の名前「アジ(鯵)」「鯛(たい)」などの字数のが少ない語があることが判った。「すづけ(酢漬け),あまず(甘酢),さんばいず(三杯酢)」のような濁点処理には,食事専用の変換辞書が必要な事,自然言語処理でStop wordになる助詞「と」「の」「に」の中で,「に」は食事調査では煮物を示す語なので特異な処理が必要な事を報告した。 また,一般の人が使う自由度が高い料理名や食材名を収集ために,大規模投稿レシピサイトのデータを観察する研究を追加した。対象データはCOOKPAD(株)と国立情報学研究所が共同公開しているビッグデータ(食材1270万件)で,肉の表記のうち,語“肉”を含まなくても肉を示す語:和牛,ミンチ、カルビ、手羽等8.7万件を抽出した。食品番号を自動でコード化するには,食品や部位を整理したルールベースが必要であること等を報告した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,これまでに開発したルールベースを用いてプロトタイプ実証を大学生の協力を得て進める。 最近の人工知能ブームが影響して,音声認識や食事調査のフリーアプリが進歩・普及しつつあるが,食事調査に関しては学術的な信頼度を担保した物はまだ少ない。従って,この研究が目指す支援ツールはアカデミック領域でのエビデンスを提供できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初より,丸3年間の計画で食物シソーラスおよび食事記録コーパスの開発を目指している。食事内容を調査するタイミングとして,季節を考慮する必要があったので,次年度に予算を執行する必要が生じた。栄養疫学・予防医学の観点での理論設計は順調であるが,コンピュータへの実装手段を決定するのが遅れているが,主任研究者が所属を異動したためシステム環境が変化したことも影響した。開発したルールモデルを実装した食事調査をコンピュータに実装するための予算を執行し,論文作成を行う。
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