本期間に、前年までに実施したラット乳腺および乳腺周囲の脂肪織の解析を行った。雌ラットに対して、2種のキサントフィルを3週齢時から5週間摂食させ、摂食期間中にMNU投与により乳腺発癌刺激を加えた。7週齢時、アスタキサンチン(Ax)あるいはカンタキサンチン(Cx)摂食期間中に発癌刺激を加えていない群の脂肪織のアディポネクチンの発現を、Western-blottingにより同定したところ、基礎食群と比較し、高用量Ax食群で有意な発現上昇がみられた(loading controlとして用いたアクチンの発現と比較した発現強度で、基礎食群の発現;0.32±0.02に対して、高用量Ax食群の発現強度;0.51±0.01)。なお、Cx食群のアディポネクチンの発現は基礎食群と比較して、有意な変化を認めなかった。 また、発生した乳癌のアディポネクチン受容体-1と-2の免疫組織化学では、Jeongらが報告した免疫染色に対する評価法を用いて染色強度を比較したところ、高用量Ax食群に発生した乳癌では基礎食群の乳癌と比較して、アディポネクチン受容体-1、-2ともに、強く発現する傾向がみられた。 アディポネクチンはG0/G1期細胞周期回転因子であるcyclin D1の発現を抑制することにより、ヒト乳癌細胞株の増殖を抑制することが報告されている。今回の解析結果から、高用量のAx摂取は、ラットの乳腺脂肪織で産生・分泌されるアディポネクチンを増加させることにより、アディポネクチン受容体陽性の乳癌の発生を抑制したと推察された。
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