研究課題
我々はフィトケミカルが乳癌発症リスクを低下させるという疫学研究のエビデンスを乳癌発症モデルラットでの検証を行うとともに、乳癌細胞を使用して単独や併用での抗癌作用の分子メカニズムを明らかにしてきた。大豆イソフラボンのエクオール(EQ)は単独での乳癌細胞の増殖抑制効果は低かったが、ゲニステイン(GEN)との併用で強い相乗的な増殖抑制作用を示し、この効果は主にBax/Bcl-xL比の上昇によるアポトーシス誘導作用によることを示した(Nutr. Cancer 69(8):1300-1307, 2017)。このことはダイゼインをEQに転換できるアジア人で乳癌発症が少ない理論的根拠になりうる可能性がある。また多くのヒト癌細胞で活性化されているSrc癌遺伝子を導入したヒト癌細胞に対してGENは強い増殖抑制能を示したが、EQ、ダイゼイン、グリシチンは殆ど抑制効果が見られず抵抗性を示した。FACS解析ではGENの増殖抑制はアポトーシス誘導ではなく細胞周期をG2/Mに停止させることが主な機序であり、分子レベルではp53とp21の発現を上昇させることが判明した(日本癌学会総会2017)。GENはSrcが活性化した癌に効く可能性がある。レスベラトロールよりバイオアベイラビリティの高いジメチルレスベラトロールはリコペンと同様にトリプルネガティブの乳癌に効果を示し、細胞周期をG1期に停止させ、AKT-mTORのシグナルを抑制し、Baxの発現を高めアポトーシスを誘導した。またトリプルネガティブ乳癌細胞を移植した担癌ヌードマウスでの経口投与では腫瘍増殖を著明に抑制した (Anticancer Res. 37(11):6153-6159, 2017)。現在、アントシアニン誘導体であるデルフィニジンの抗癌作用を乳癌細胞及び担癌マウスで解析中である。
2: おおむね順調に進展している
In vitroでの乳癌細胞の増殖抑制の分子機序の実験はほぼ順調に進んでおり、とくにゲニステインとエコールの相乗効果を明らかにし、その一部の成果は国際誌に発表した。乳癌予防実験ではほとんど相乗作用を見出せず、この原因は発癌剤のEMS濃度を高く設定したため発癌力が強く、予防効果が相殺された可能性があるため、EMS濃度を落として再実験している。リコペンによるラットでの乳癌発症抑制実験では、血中濃度を上げるため油脂の添加を行い再実験している。これらの再実験のため、結論が出るまでにまだ時間がかかると思われる。また多くのヒト癌細胞で活性化されているSrc癌遺伝子導入ヒト癌細胞に対してゲニステインは強い増殖抑制能を示したが、EQ、ダイゼイン、グリシチンは殆ど抑制効果が見られず抵抗性を示した。FACS解析ではGENの増殖抑制はアポトーシス誘導ではなく細胞周期をG2/Mに停止させることが主な機序であり、分子レベルではp53とp21の発現を上昇させることが判明した(EACR欧州癌学会2017で発表)。現在Src導入細胞を移植した担癌ヌードマウスでのGENの抗腫瘍効果を検証中である。
In Vitroでの乳癌細胞の増殖抑制の分子機序の研究は今後、他のフィトケミカルについても行っていく。とくにアントシアニン誘導体の中で唯一抗腫瘍効果があるデルフィニジンの作用機序と、担癌ヌードマウスでの抗腫瘍効果の検証の実験を行う。更にブロッコリのスプラウトに含まれるスルフォラファンの作用にも注目して研究を開始した。EMS誘発乳癌モデルラットを用いた実験でリコペンの吸収を促進するために脂肪食を使用する。また担癌ヌードマウスにおける実験ではフィトケミカル投与群での腫瘍増殖抑制効果をアポトーシス誘導から解析するため、TUNEL法による腫瘍組織でのアポトーシスの定量を行い、in vitroとin vivoの整合性を確認する。また多くのヒト癌細胞で活性化されているSrc癌遺伝子導入ヒト癌細胞に対してゲニステインは強い増殖抑制能を示したが、Ras, Her2、EGFRなど他の活性化癌遺伝子を導入したヒト細胞に対してはどのように働くかを検証する予定である。以上の研究で乳癌発症リスクを低下させるという疫学研究のエビデンスの検証を行うとともに、異なる癌遺伝子に対するフィトケミカルの作用の違いを明らかにし、臨床応用への可能性を探る。
FACSの装置が故障し、修理に時間がかかったためFACSによるアポトーシスや細胞周期解析ができなかった。このためFACS用の試薬とFACSにより明らかとなる標的蛋白の抗体の購入費が浮いたため次年度使用額が生じた。FACSが修理が終了したため30年度の研究に使用する。
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Nutr Cancer.
巻: 69 ページ: 1300-1307
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Anticancer Res.
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J Clin Hypertens (Greenwich)
巻: 19 ページ: 653-660
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