摂食行動には多重な生理的抑制システムがあるが、過剰摂取が我々の日常生活では生じている。それには、生理的な摂食抑制システムの機能不全が一つの原因であると考えることができる。そこで、マウスにおけるショ糖過剰摂取行動を実験モデル系として用いつつ、まず、摂食抑制系の一つである消化管ホルモン作用における変容について検討した。消化管ホルモン分泌の変容を調べるため、消化管へのショ糖刺激に対するペプチドYYの血中濃度を計測したところ、対照マウス群に比べて過剰摂取経験群では少なかった。また、過剰摂取経験後では自由給餌下でのショ糖摂取が増大することから、過剰摂取群では味覚嗜好性に基づく摂取の亢進が示唆されている。しかしながら、消化管ホルモン(ペプチドYY、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチド1)を末梢投与したところ、その増大が抑制された。以上から、我々のマウス過剰摂取モデル系では、内因性の消化管ホルモン分泌やそれに伴う味覚嗜好性の変化によって生じる摂食抑制に機能変化が生じることが示唆された。 さらに、摂食抑制系には血糖値由来のシステムがある。そこで、上記のマウス過剰摂取行動モデルにおける血糖由来の抑制機構を調べた。糖負荷試験では、ショ糖過剰摂取を経験したマウスでは血糖制御に有意な変化が生じていた。また、対照マウス群において、実験的に血糖値を増大させると固形飼料の摂取は抑制されたが、過剰摂取経験群では血糖増大に伴う摂取抑制はみられなかった。さらに、血糖増大に伴う脳賦活化パターンをc-fos免疫染色をマーカーに用いて分析したところ、対照群と過剰摂取経験群では視床下部での活動パターンに相違があった。 以上から、マウス過剰摂取モデル系では消化管ホルモンや血糖に由来する複数の摂食抑制系における機能が変化していることが示唆された。
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