研究課題/領域番号 |
15K00883
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田村 悦臣 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (50201629)
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研究分担者 |
多胡 めぐみ 慶應義塾大学, 薬学部, 准教授 (30445192)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コーヒー / 生活習慣病 / 肥満 / 大腸がん / 炎症 |
研究実績の概要 |
一日3~5杯のコーヒー喫飲の習慣が、糖尿病やがん、認知症など、様々な生活習慣病のリスクを低減する効果があることが報告されている。本研究では、コーヒーの生活習慣病予防効果を分子レベルで解明することを目指している。 コーヒーによる肥満予防の効果を解析するため、前駆脂肪細胞3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化に対する効果を調べた。3T3-L1細胞を脂肪細胞に分化誘導する際、コーヒーを加えると分化初期段階におけるG2/M期への移行が抑制される事を見出した。解析を進めた結果、コーヒー成分が、分化誘導に必須のERKによる転写因子C/EBPbのリン酸化を抑制すること、この抑制はインスリンシグナルにおけるIRS1の抑制によることを明らかにした。コーヒー成分によすIRS1の抑制はIRS1特異的に起こり、それはIRS1タンパク質の分解促進によることを見出した。 一方、コーヒーによる大腸がん予防効果については、ヒト大腸がん由来Caco-2細胞を用いて解析を進めた。コーヒー添加により、Caco-2細胞の増殖が抑制され、同時に、がん遺伝子K-rasの転写およびKRASタンパク質の発現が抑制された。この時、K-ras遺伝子を標的とするmicroRNAであるmiR30cおよびmiR96の発現がコーヒー用量依存的に誘導されていることを見出した。さらに、この効果はコーヒー豆の焙煎により生成する成分によるものであることが明らかとなった。 さらに、コーヒーの抗炎症効果を、マウスマクロファージRAW264.7細胞を用いて調べた。細胞をLPSで刺激すると炎症性マーカー(NO, iNOS)および炎症性サイトカイン(CCL2, CXCL1, IL-6)が誘導されるが、この発現誘導はコーヒー濃度依存的に抑制された。また、この効果はコーヒー豆の焙煎により生成する成分による効果であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ研究計画に沿って研究を遂行できた。具体的には、生活習慣病のリスク要因である肥満に対するコーヒーの抑制効果について、インスリンシグナル伝達への抑制効果を分子レベルで明らかにできたこと、また、大腸がん予防効果の一因として、miRNA誘導を介する発がん遺伝子rasの抑制効果を明らかにできた点が挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究でコーヒーの肥満予防効果のメカニズムとして、インスリンシグナル伝達への抑制効果が明らかとなった。特に、コーヒー成分によるインスリン受容体アダプター因子IRS1の分解促進効果の分子メカニズムを明らかにすることを目指す。プロテアソーム阻害剤MG132によりコーヒーの抑制効果は減弱することから、ユビキチン-プロテアソーム分解系が関与している予想され、この分解システムへの効果を中心に解析する。また、関与する成分の同定も進める。 コーヒーの大腸がん抑制効果では、コーヒーによる2種のmiRNAの発現誘導が明らかとなったが、このmiRNA発現誘導のメカニズムの解明を進める。具体的には、関与する転写因子の特定とそれに対するコーヒー成分の作用の解明を進める。また、関与するコーヒー成分の同定も行う。 また、コーヒーの抗炎症効果の解析では、RAW264.7細胞を用いてLPS刺激による炎症を抑制する効果を明らかにしたが、今後、LPSで炎症を惹起した動物モデルについて、コーヒーの抗炎症効果が見られるかどうかを、血液および各臓器の炎症マーカーを解析することにより明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り使用できたが、端数が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越して使用する。少額なので、計画の変更はない。
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