研究課題/領域番号 |
15K00889
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 助教 (30328851)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 損傷関連分子パターン(DAMPs) / 細菌外毒素 / コレラトキシン / HMGB1 / 粘膜組織 |
研究実績の概要 |
まずマウス小腸器官培養を細胞外毒素で処理した時の損傷関連分子パターン(DAMPs)の細胞内発現と細胞外放出の変化について検討した。マウスから小腸を摘出し、EDTA処理した組織断片からクリプトを遠心分離、採取した。クリプトには腸管上皮幹細胞が存在し、マトリゲルを用いた三次元培養法によって器官培養し腸上皮組織を再現できた。この腸上皮組織器官培養に細菌外毒素であるコレラトキシンを加え、顕微鏡下で観察したところ、コレラトキシン添加30分後に著しく組織が変形・膨張した。その後少しずつ組織が収縮したものの、8時間後においても組織の変形・膨張は観察された。コレラトキシン添加前後の上皮組織における、代表的なDAMPsであるhigh mobility group box protein 1(HGMB1)の遺伝子発現をRT-PCRで定量したところ、遺伝子発現量には変化は認められなかった。次に器官培養上清(マトリゲルおよび液体培地)中に放出されるHMGB1量を酵素抗体(ELISA)法によって定量したところ、コレラトキシン添加濃度に依存して上清中のHMGB1は有意に増加した。 また、マウスにコレラトキシンを経口投与した時の小腸粘膜組織におけるHMGB1の遺伝子発現と細胞外放出も検討した。マウスへのコレラトキシン経口投与前後に小腸を摘出し、小腸粘膜組織におけるHMGB1の遺伝子発現をRT-PCRで定量したところ、遺伝子発現量には変化は認められなかった。しかし、コレラトキシン経口投与前後の血中および糞便中HMGB1濃度をELISA 法で定量したところ、投与6時間後の血中・糞便中に有意なHMGB1の増加が観察された。 これらの結果より、マウス小腸粘膜組織にコレラトキシンのような細胞外毒素が作用すると、組織の変形・損傷が起こり、HMGB1などのDAMPsが組織外に放出されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は以前の研究で、食物抗原と共に細菌外毒素であるコレラトキシンをマウスに経口投与した場合、抗原特異的な食物アレルギーが誘導されることを明らかにした。本研究では、その細菌外毒素によって腸管からDAMPsが放出されるか否か、およびそれらDAMPsの食物アレルギーの発症や進行への関与を明らかにすることが目的である。 研究の初年度である今年度は、小腸器官培養およびマウス生体の腸管に細菌外毒素を作用させたとき、DAMPsの遺伝子発現または細胞外放出が起こるか否かについて検討した。その結果、細胞外毒素であるコレラトキシンを小腸器官培養に添加したところ明らかな形態変化がみられ、これらの培養上清および、マウスにコレラトキシンを経口投与したときの血液中と糞便中に代表的なDAMPsであるHMGB1の有意な増加が認められた。一方、コレラトキシン添加による細胞内HMGB1遺伝子発現に変化はなかった。つまり、マウス小腸粘膜組織にコレラトキシンのような細胞外毒素が作用すると、組織の変形・損傷が起こり、DAMPsであるHMGB1が組織外に放出されることが示された。 特にマウス生体への細胞外毒素投与後に、明らかにHMGB1が血中・糞便中に増加したことは大きな発見である。このHMGB1は損傷した粘膜組織から放出されていることが考えられ、アレルギーや炎症の誘導に関与する鍵となる因子である可能性がある。HMGB1がアレルギー・炎症の誘導にどのように関与するかを、来年度以降の研究で明らかにしていきたい。現在の研究の進行状況はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
アレルギーや炎症の誘導には、樹状細胞のような抗原提示細胞が関与することが報告されている。実際、我々はこれまで、コレラトキシンによってアレルギーを誘導したマウスでは、消化管粘膜の樹状細胞が著しく活性化することを見いだした。今後の研究で、マウスにおいて放出されたHMGB1が樹状細胞を活性化するか否か、そして活性化した樹状細胞によって抗原提示されたT細胞が過剰な反応を示すアレルギー誘発性T細胞になり得るか検討する。 まず、マウス腸管膜リンパ節から樹状細胞を分離・精製する。採取した樹状細胞に様々な濃度のHMGB1を添加し、樹状細胞の活性化を解析する。HMGB1添加前後の樹状細胞におけるCD80、CD86、MHCクラスIIといった活性化表面マーカーの発現の変化を、フローサイトメトリーを用いた測定によって解析する。 また、これらの試験管内での樹状細胞の活性化が、抗HMGB1抗体やグリチルリチン酸といったHMGB1拮抗剤の添加によって阻害されることを確認する。さらに、コレラトキシンを経口投与したマウスにおける樹状細胞や抗原特異的T細胞の活性化が、損傷した粘膜組織由来のHMGB1に起因するかについて検討する。すなわち、マウスへの抗HMGB1抗体やHMGB1拮抗剤の投与によって上記の細胞の活性化が抑制されるか検討する。この際、卵白アルブミン(OVA)特異的TCRを遺伝子導入したOT-II T細胞をマウス樹状細胞と共培養し、OT-II T細胞の増殖をカルボキシフルオレセイン・ジアセテート(CFSE)色素を用いてフローサイトメトリーで測定する。また増殖したOT-II細胞は、IL-4やIL-13といったアレルギーに関わるTh2型サイトカインを過剰に産生する可能性がある。培養上清におけるこれらのサイトカイン濃度をELISA法によって測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画当初は、マウス小腸器官培養にコレラトシキシンを添加、およびマウス生体にコレラトキシンを投与した際に、小腸組織においてHMGB1遺伝子発現に変化がある可能性も想定してRT-PCR試薬・プライマーを含め、実験予算を算定した。しかし、実際は組織や生体におけるHMGB1タンパク質の放出は認められたものの、遺伝子の発現には変化はみられなかった。そのため、遺伝子発現実験について予定していた予算は、ELISAなどのタンパク質アッセイ実験に用いるなど、一部予算の使用に変更が生じた。そうした中で、若干の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、細胞外毒素の添加や投与によって、細胞内HMGB1遺伝子発現ではなく、細胞外HMGB1放出が増加することが明らかになったため、今後の研究方策を明確に立てることができた。次年度以降の研究費使用は予定に沿って円滑に進むと考えている。必要な器具や試薬を研究計画に従って購入し、適切に実験を進めていく所存である。
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